(Last update:)
[実験試作体](HMX PROJECT)
実験用仮想体:HMX-00(セロ)
基本フレーム試作体:HMX-10『プロト』

[実証試作体](HMX PROJECT)
実証試作機:HMX-11『アルファ』

[実用試作体](HMX PROJECT)
実用試験用試作機:HMX-12『マルチ』
初期能動動作学習用基本フレーム:HMX-1xp(子マルチ)
実用試験用試作機:HMX-13『セリオ』
先行量産機:HMX-14(名称無し)

[高度実証試作体](HMX EXTEND PROJECT)
基本フレーム試作体:HMX-20『ソア』
実証試験用試作機:HMX-25『リーラ』
実証試験用試作機:HMX-24『ティア』
追加実証試験用試作機:HMX-26(マルチ2)

用語解説


はじめに

 HMXシリーズは、来栖川重工社製汎人機(※)の一つの到達点と言って過言ではあるまい(販売は来栖川エレクトロニクスから行われたが、開発・生産は来栖川重工が担当している)。
 それは同社の人型介護/自立支援システム・HASS(Humanoid for Assistance and Support System)シリーズの開発で培われてきた高度な汎人機開発技術と、その実際の運用から得られた様々なノウハウの集大成であり、その一方でHASSで採用されていた重み付けされた優先順位によるシーケンシャル処理とは完全に決別した平行処理型の連鎖連想アルゴリズムを採用したCNS(中枢処理システム)、物理量として電力を保持するトカマク型超伝導バッテリ、高機能インテリジェント素材群、光ファイバ型アクチェータなど、数多くの新規開発技術が惜しげもなく投入された、あまりに贅沢な試作品でもあった。
 また同時に、HMXシリーズはその開発において、HASSシリーズなどでは全く考慮する必要のなかった多くの制約を課せられていた。その中で特に重要視されたのは製品段階での販売価格、特別なコンソールを必要としないFTF(マルチモーダル)インタフェイス、そして高度な自立判断能力である。もっとも厳しい制約となった販売価格は、HASSシリーズの約十分の一程度、普通乗用車並みの価格であることが要求されていた。
 これは、HMXのもつポテンシャルから考えれば、ある種無謀とも言える制約であった。
 当時は、高価かつ特殊用途に最適化された『汎用人型機械』とは名ばかりの汎人機が市場の大部分を占め、一般家庭内用の汎人機といえば、ペットロボットを二足歩行化し、人型サイズにしたもの以上のモノではなかった。最も人手を必要としているはずの家事全般の作業補助・代行に関しては、全くの手つかず状態だったのである。HMXは、そうした一般家庭という「最も見落とされがちな、最も重い労働」から、使用者を開放するために開発が始められた。
 つまり、HMXシリーズは来栖川重工製汎人機の『フラッグシップ』(最高級機種)開発を意図したものではなく、当初から『一般家庭向け汎人機』という新たなる市場を切り拓くべく開発がなされたものだったのである。
 HMX以前、以後と言われることすらある様に、HM/Xシリーズ発表以後の汎人機の世界は大きく様変わりし、汎人機は今や『ある意味で人類以外の新たな知的存在』と呼ばれる程の発展を遂げている。こうした、発展の原点とも言えるHM/Xシリーズの詳細を再検討することは、いまの汎人機を概観する上で重要な要素の一つとなるのは間違いあるまい。
 本書『偽’機械主義者〜SINE QUA NON』は、HM/Xシリーズの全容を解説しつつ、HM/Xが必要とされた社会状況や、HM/X開発の前提となった各種技術などを概観していく。
(※:『メイドロボ』は来栖川重工社の登録商標。)


機体形式番号について

 機体形式番号は以下のようなルールに基づいている。

機体形式番号分類法
HM 0
系列名称
Humanoid for
Multi purposes Housekeeping
and assistance
実験用試作体分類   基本フレームバージョン
(アクチュエーター・フレーム)
(※1)
中枢処理システムバージョン
(※2)
特殊用途のための開発コード
特にない場合は、付けられない
  試作体番号
一体しかない場合は付けられない
(※3)
※1:基本フレームバージョンが0の場合は、基本フレームの実体は無く、仮想ユニット(シミュレーションユニット)に置き換えられていることを示す。
※2:中枢処理システムバージョンが0の場合は、CNSの実体は無く、基本フレームがICEUに接続されていることを示す。
※3:一体目の試作体番号は0になる(原型機)。


 一般的に、HMX-12は『12番目のHMシリーズ試作/実験体』と思われている場合が多いが、実際は『1型の基本フレームを使用し、2型の中枢処理システム(以下CNS)を搭載したHMシリーズ試作/実験体』の意味で使われている。また、特殊用途のため特殊用途のための開発コードは、例えば『HMX-13c』の場合『開発コードc』は『特定医療機関のための低電子雑音型』を示している。
 ただし、この開発コードは、プロジェクト内で各開発担当者が適宜決めていったもので、特にこれといった規則性はない。そのため、HMX-11においては、『コードb』が『二体目の試作体』を意味しているのに、HMX-12/13以後は同一設計の複数の試作体を識別するのに、例えばHMX-12a-0のようにハイフン(−)の後に試作体番号を追記する方向に改められている。また、『コードc』によく似た『コードci』は、医療機関や低電子雑音とは全く無関係の『ノイマン型補助電脳搭載型』を意味しているなど、当時の開発部員以外には、全く分からないものになってしまっている。

 ここで単に型版だけを考えれば、HMX-21型やHMX-16型などが存在してもおかしくはないが、実際は、基幹情報光バス(通称、脊椎ファイバ)のコネクタ形状や転送可能データレートなどの関係などから、基本フレームとCNSの設計は密接に関係している。そのため、通常CNSは特定の基本フレーム(アクチェータフレーム)のみに対応した設計が行われている。
 HMXシリーズでは、HMX-1x基本フレーム用にHD-CNS 1/2/3が、HMX-2x基本フレーム用にLD-HD-CNS 4/5/6(Light-Diffraction HoloDynamic CNS)が、ぞれぞれ専用CNSとして採用されている(HD-CNS 4をHMX-1x型基本フレームに用いたHMX-14は設計終了前に試作が白紙撤回されている)。



HMX-00
(名称無し。研究所員からは『セロ』と呼ばれた。)

「セロは、私たちの手の届かないところにいました。それでも私たちのために必死にもがいて、動いて、さまざまな事を教えてくれたんです。」
(中央情報センター:上柳一郎)

HMX-00 HMX-00は、HMシリーズ開発の前段階として設計製作される試験機HMXの為の、各種データを収拾するためにスーパーコンピュータなどのシミュレーション空間内で扱われる仮想体である。
 これは、開発の前段階として、試作体が起こしてはならない『絶対禁止動作』を確認し、またそれを基幹動作システムにプログラムとして反映させるために演算仮想体として構築された。
 用途が要介護者の支援などに限られていたHASSシリーズと異なり、一般家庭での使用を前提としたHMXシリーズはユーザーである健康な人間の行動範囲内のほとんど全ての環境に対応する必要がある。その為にHMX-00は、想定し得るありとあらゆる状況の元での試験が行われた。また、人間が想定できない不慮の事象での行動を検証するために初期条件などを乱数によって変化させた状況での応答や行動も検証された。
 仮想空間上での実験開始当初、HMX-00の能力は、当初開発部を大きく落胆させた。応答性はあまりに悪く、問題処理能力も欠如していたのである。

 『HMXはHASSに介護してもらう必要がある』。これは開発部長長瀬氏の当時のぼやきである。

 この結果を受け、開発部は、HASSシリーズなどでそれまで採用してきたイベント駆動型の優先順位付き逐次処理アルゴリズムの採用を断念する。HASSシリーズの十分の一の価格でそれ以上の能力を達成させなければならないHMXシリーズには、別のアプローチが必要であると痛感したのである。いくつかのアルゴリズムでのテストを経た後、最終的に採用されたのは多数の処理単位を常時並列駆動させる超並列データ駆動型連鎖連想アルゴリズム(以下、並列型連鎖連想アルゴリズム)であった。
 これを採用した後のHMX-00はようやく当初の目標を達成し、テストを消化していくことが可能となった。  しかし、問題がなかったわけではない。例えば、HASSシリーズのエミュレートを念頭に置いた逐次処理系の仮想システムで並列型連鎖連想アルゴリズムを実行するために、動作確認などに多くの時間が必要となり、いわゆるエミュレートコストを当初予定の数十万倍にまで増大させてしまった。
 さらに、これらテスト途中で(正しくは、エミュレート環境下での)タイプ0のCNSは、情報量の飽和に起因する暴走(飽和暴走)を幾度と無く引き起こした。特定の記憶を消去することの出来ない並列型連鎖連想アルゴリズムの欠点を、図らずも露呈させることとなったのである(仮想空間内でのHMX-00の動作は、実空間での動作を完全に再現できるわけではない。仮想空間内での、動作はあくまでシミュレーションである。一方、仮想空間であっても、HMX-00中枢処理システムの動作は完全にエミュレートする事が可能である)。
 仮想体の『飽和暴走』という問題があったにも関わらず、開発部があえて並列型連鎖連想アルゴリズムを採用したのは、HMXシリーズには、これと同時に開発が開始された光回路CNSを採用することを前提にしていた為である。しかし、光回路CNSの開発は遅れに遅れ、結局試作が決定したHMX-11にはHASSシリーズと同様に固体半導体回路を使用したものが搭載される事になった。また光回路CNSが完成し、搭載されたのはHMX-2xシリーズ以降である。





HMX-10:プロト

「プロトの変容は、芋虫が蝶へと変わるサナギの中を覗き見ているみたいだったね。毎日、どこかが新しくなって……俺たちでも、驚くくらいだったよ。」
(ボディ設計班:佐藤信司)

HMX-10 HMX-1x基本フレーム試作機。
 並行型連鎖連想アルゴリズムを搭載したホロダイナミック型中枢処理システム(以下、HD-CNS)を実装する前に(この時点では、未だ開発途上にあった)、代替の外部処理装置(ICEU:In Circuit Emulation Unit)を接続した状態でボディの動作を確認する為に試作。開発そのものはHMX-00と同時期に始まったが、HMX-00のテストが長引いたことから、当初はHASSシリーズ用のICEUを接続した状態での動作テストが行われていた。
 本体は自律動作可能だが、ICEU及び電源のためのケーブルが接続されている為に、行動範囲とボディの可動範囲は限られている。また、試作された基幹動作システムが搭載され、上位システムの監視下で動作実験が行われた。
 HMX-10の試作目的の一つとして製造コストの削減があり、その為にHMX-10は新しい試作部品が到着する度に分解され、組み直される事になった。ロールアウト直後からテスト終了直前までに交換された部品数は延べ30万点に達し、交換された部品を集めるとHMX-10があと二体半組み上がる計算になる。実験開始当初は、ほとんどの部品がHASSシリーズと同型を使用しており、HMXシリーズ専用パーツが本格的に到着し始めたのは、HMX-00のテストも後半にさしかかってからであった。
 この様に、基本フレーム(アクチェータフレーム)の再設計と試作、そして動作実験が平行して行われていた背景には、HMX計画が人員及び予算を集中投入し、その代わり研究期間を限る、というクラッシュプログラムであった事が挙げられる。また、能動的学習を行う連鎖連想アルゴリズムは、基本フレームの再設計などによる細かい挙動の変化に十分対応可能だったことも重要である。
 もしHASSの様な、優先順位付き逐次処理アルゴリズムを採用したCNSを持つ基本フレームを再設計する様な場合、難しい問題に直面することになる。OSや基幹動作システムに対して基本フレームの挙動(力学的)パラメータを再設定する必要があり、各種パラメータの再計算や再設定に対する手間や必要な時間・人員などを考えると、現実的なものではなくなってしまうのだ。こういった些末な、しかしHMX計画全体にとっては重大な変更に対して柔軟に対応できる連鎖連想アルゴリズムは、次第にHMXシリーズの研究開発の必須の要素になっていった。

 HMX専用パーツ群は、その低コスト化と引き換えに、耐久性、安全率の低下などを受け入れざるを得なかった。そこでHMXシリーズで使用されるほとんど全てのパーツにはインテリジェント素材が採用された。インテリジェント素材の採用は、特に以下の二点で重要な効果が望めたためである。

 1)各パーツが疲労破損などを引き起こす前に、その欠陥を容易に検出し、事故を未然に防ぐ。これによって結果的にメンテナンスコストを削減することが出来る。
 2)単体では幾分高価となるが、量産効果による低コスト化が望める。

 さらに、その重要度に応じて応力や負荷などをチェックするためのセンサが取りつけられた。センサから得られたデータは、コストダウンや安全率の向上等のための有益な情報となり、次の試作部品の設計にフィードバックされた。
 センサは各種データをより高い精度で効率的に収集するために、パーツそのものと一体化する形で設計されていたが、HMX-11の試作段階で、設計上センサの取り外しが出来ないことが明らかとなり、問題となった。新たにセンサなしの状態で部品を設計しなおすと、今まで蓄積されたデータの一部が使えなくなってしまうのである。
 そこで、開発部はあえて部品のセンサ類を取り外した形での再設計は行わず、部品にもうけられたセンサの情報を、直接CNS(中枢処理システム)にフィードバックさせる事にした。これにより、HMX-11以降のHMXシリーズは、ある程度コストの上昇を招きはしたが、自らの状態をより正確に把握することが可能となった。自分自身の状態を確認させることで、過負荷行動に起因する故障や破損を自律判断で未然に防ぐ事が出来るようになった訳である。これにより、製品出荷後のメンテナンスまで含めたより長い期間で見た場合のコストの削減ができる事になった。
 HMX-10は、HMX-00で確認された『飽和暴走』を、処理単位の増強によって補おうと試みられたが、実際の環境から与えられる情報量は、仮想空間からのそれを大きく上回っていたことから、本機もまた暴走を引き起こした。しかし、この過程で開発チームは、0タイプのCNS(この場合はICEU)が、情報量の飽和から暴走を引き起こすまでの過程を詳細に検証することが出来た。これは、ボディのみではあるが、0タイプが実体を持った事によって初めて観察・検証が可能になった事が大きい。
 この後、暴走過程が疑似人格に及ぼす影響から、以後この過程は、『反抗期』と呼称されることになる。




HMX-11:アルファ

「破損したアルファが、あのハンガーの中で動き出したときは、びっくりしました。まるで、重傷の人が痙攣しているみたいだったんです。」
(監視オペレーター:河内ひとみ)

HMX-11 HMX-00、HMX-10の試作や、それらに対する様々なテスト等から得られた情報を元に試作されたHD-CNS Type1を初めて実装したHMXシリーズの実証試験機。
 HMX-1x型基本フレームの最終的なブラッシュアップと、自律行動及び自律学習の試験が行われた。
 各パーツにかかる応力や負荷などをリアルタイムで送信させるなど、監視すべき要素が多いために、上位システムとのリンゲージを行う低軌道衛星回線用複合アンテナは、HMX-12以後のHMXシリーズと比較して大型のものが実装されている。コネクタも耳朶上部裏側の側頭部ではなく、尾骨(尾てい骨)末端部の脊椎コネクタに直接接続する方式を取っている。そのため、HMX-11は尾骨から大型のアンテナが伸びている様な状態となり、開発部員たちからは『尻尾付き』と呼ばれていた。
 この尾部大型アンテナは、システム監視のための高密度通信には、きわめて有用だった。しかし、その一方で、着座姿勢が取りにくい事、一般状況下(研究所以外での不特定の状況)では、時として人や物に引っ掛かる場合がある事、そして一般的な衣類が着用できない場合があるなどの問題が指摘された。そのため、一般家庭用途での使用を目標としていたHMシリーズに採用するには問題があるとされ、HMX-12/13以降のHM/Xシリーズでは、この尾部大型アンテナは製造時オプション扱いとされている。
 当初、HMX-11にはトカマク型超伝導バッテリの搭載及び試験が予定されていたが、試作バッテリは、この時点で設計すら終了していなかった。そのため開発部は、予備試作体HMX-11bのために準備されていた低容量のリチウムイオン型バッテリを、急遽HMX-11に搭載した。
 トカマク型超伝導バッテリの試作の遅れから、外部電源からの電力の供給を受けない自律駆動時間は最大でも3時間となってしまったが、逆にこれが『反抗期』の経過を辿るアルファの行動を適度に制限する事にもなった。
 来栖川重工上層部が最後まで試作・搭載にこだわった、超伝導バッテリの試作の遅れは、HMX計画、ひいては量産機であるHMシリーズ全体の量産スケジュールに重大な影響を及ぼし、開発部の頭痛の種となり続けた。結局、超伝導バッテリの完成は、延長HMX計画でのHMX-25/26を待たなければならなかった。超伝導バッテリは、性能面では当初目標としていた数値を上回ったものの、高温超伝導物質のコストの問題や、コイルの冷却のために液化窒素を必要とするなど、安全面での問題も解決することができなかった。そのため、民生用のHMシリーズには搭載されず、HM-13kなどの一部の極限環境用途機が少数採用したに留まっている。
 上記の通り、プロト同様アルファも『反抗期』を引き起こしたが、プロトに較べ、処理単位数とホロダイナミック次元をそれぞれ増加させたアルファのCNSはこれに良く耐え、『反抗期』が、実は人工知能の『自律人格』形成過程であることを明らかにした。これは、後に発展した人工知能心理学の萌芽とも言える。
 アルファはまた、一般状況下の中で実際に自律行動させることによって、量産機のための各種データを収集する実験にも使用されたが、テスト最終段階で交通事故に見舞われ、修復不能なレベルで破損してしまった。
 この事故の原因は『予期せぬ自律判断』であり、詳しい状況などについては肝心のHD-CNSが破壊されてしまったために、ハッキリとした原因は分からなかったとされている。
 ところが、この開発部の釈明には、実は重大な矛盾がある。
 HMX-12/13がHM-12/13として量産化された際、それぞれのHD-CNSに記録されていた情報を元に量産機用HD-CNSの初期学習を行っている事は言うまでもない。HMX-11においても、尾部大型アンテナが実装されていることからも明らかなように、HMX-11のHD-CNSによって処理される情報と全く同じ情報が開発部の監視システムに転送されている筈で『事故時の状況が分からない』訳がないのである。こうした矛盾点について、長瀬開発部長をはじめ関係者は一様に『部外秘である』として説明を避けている。一部では、HMX-12/13の特異行動へとつながるHD-CNSの『自律人格』に関わっているのではないかと言われている。
 この『予期せぬ自律判断』を巡って、法務部はHMXシリーズの開発に異を唱え、数カ月に渡って開発部と対立した。結局、『使用者同伴である場合のみHMXの自律判断を許可する』という方針の元に社内の意見がまとまり、開発中止は回避された。
(この自律判断に関する制約は、マニュアル中での記載や、販売時の口頭による注意などによって周知を徹底させる為の計画が立てられた。しかし、量産されたHM-13は自律判断より外部処理装置系での判断に重点を置き、またHM-12は、OS上でHD-CNSのホロダイナミック次元を下げたことから事実上の自律判断が不可能となったために、結局無駄となってしまった。)

 HMX-11は、HMX-12及びHMX-13の前身であり、HMX-1x型基本フレーム(アクチェータフレーム)を使用しているにも関わらず、やや中性的なボディラインを持っており、HMX-12以降と受ける印象が異なる。これは基本フレームがHMX-11の試作が完了した時点でも、まだ設計の改良・改変が行われ続けた結果だが、HMX-10と異なり、HMX-11は最後まで基本フレームの変更は行われなかった。  基本フレームの変更が行われなかった理由の一つとして、アクチェータそのもののエンデュランステストが行われていた事がある。基本フレームには、様々な種類のアクチェータが三百近く組み込まれている。HMX-11は、それぞれのアクチェータの実際の仕様環境下での使用比率や経時的性能変化などを確認するために、アクチェータの組み替えを行わなかったのである。  しかし、平行して試作されたHMX-11と同型のHMX-1x基本フレームは、CNSを搭載する代わりに、HMX-10で使用したCNSエミュレーションシステムを接続し、HMX-10と同様の組み替えが行われていた。
 このHMX-11の双子の弟(妹?)は、制式名称もなく、単に『bタイプ』(HMX-11bの事か?)と呼ばれたが、HMX-1x型基本フレームを完成に導くなど、それ以後のHMXシリーズの為の基礎技術を完成させるための試金石的な役割を果たした。また、HMX-11が交通事故によって半壊した際も、代替機として研究開発の中断を防いでいる。




HMX-1xp:(子マルチ)
※開発部員たちが付けた愛称。正式名称ではない。

「とにかく、大変で、忙しくて、目が離せなくて………それしか憶えてません。」
(HMX-1xp能動学習担当:柴田宏一)

 HD-CNSの特性として、その自律人格形成過程において『反抗期』を引き起こすことが明らかになっていた。
 HMX-1xp系は、この状況でHMXシリーズの開発をスムーズに行うために、設計開発がなされた自律学習用基本フレームである。
 『反抗期』は、その過程で予測できない行動を引き起こし、基幹行動システムの絶対禁止行動フィルタを介しても尚、周囲の人間に危害を与える可能性を否定できない。そこで、HD-CNSが起動し、『反抗期』を経て自律人格を確立するまでの間、周囲への影響を最小限に押え、安全を確保するために、意図的に低性能(機能的に劣るわけではない)の小型ボディを接続させることが発案され、それに基づいて設計・試作されたのがHMX-1xpである。この発想に、アルファから得られた経験が反映されている事は想像に難しくないが、子供を連想させるプロポーションなどに別の意図を読み取れないではない。
 HMX-12及びHMX-13の初期能動学習に使用されたが、そのプロポーションに起因する高い重心や、特に連鎖連想システムの自律学習・自律行動を主眼に置いたHMX-12の学習未熟状態でのHD-CNDは、『反抗期』の過程を差し引いても様々な問題行動を引き起こし、開発担当スタッフを苦慮させた。『子マルチ』という仮称も、『困る』と韻を踏んでいるのも、何かの因縁じみたものを感じる。

 HMX-1xpに関する逸話は多い。特に能動学習担当者は『当時は、幼稚園の先生と親を同時にやってるようなものだった』と回顧する。開発部は、料理や掃除、洗濯など家事一般の作業に関しては、特に大学から講師を招くなどして能動学習の支援に努めた。しかし、実際は、能動学習担当者が講師から指導を受け、それをHMX-1pxに教えるという形を取ったために、担当者にはかなりの負担となったのも事実である。酒の席で『カミさんがどんなに大変かわかったよ』という笑い話にもならない呟きが聞こえたのも、その頃である。

 能動学習担当者の苦労の甲斐あって、HMX-12/13は、HASSに比べても高い家事遂行能力を得たが、後述するように、こと調理作業にあっては、味覚及び嗅覚センサの精度の問題から所定テストをパスすることはできなかった。これは、後のHMX-3xシリーズとなってようやく解決されるが、来栖川エレクトロニクスに限らず、汎人機開発に携わる人々にとっては、今もって決して低くないハードルとなっている。

 なお、開発コード末尾の『p』は、公式にはprogressだとされているが、開発部員内ではprettyもしくはpetitだとする意見が大勢を占めている。





HMX-12:マルチ

「そこに居ると、なんとなく雰囲気が明るくなるんですよ。そんな不思議な魅力を持ってましたね。」
(マルチ担当班:濁川健之)

HMX-12 HMX-13とともに実用試験用試作機として製作され、量産機候補となった試作機。
 HMX-10、HMX-11の試作を経て洗練されたHMX-1x型フレームに、ほぼ完成の域に達した試作型HD-CNS Type2を搭載している。
 HMX-11同様、当初電源として採用される予定だったトカマク型超伝導バッテリは、高温超伝導体の開発の遅れ、代用となる超伝導物質コイルの収納容器に使用する抗低温素材の選定・開発などに手間取って試作すら終了していなかった。もちろん、開発部はこの遅れを既に織り込み済みで、HMX-12には、HMX-11に比して4倍近い大容量固体電解質(リチウム・ポリマー)型リチウムイオンバッテリを搭載している。

 HMX-13と共に、研究施設内でのロードテスト、エンデュランステストなどのデータ収集に使用され、その後小規模な改良が行われた後、一般社会内で量産のためのトライアルに供された。このときHMX-12は、学園内という不特定多数のユーザーからの指示を受ける環境下にあって、自律判断で自らの使用者を選ぶという、人工知能としては不適格とも思えるほどの高度な自律判断を行っている。HMX-12の取った多くの不可解な行動は、トライアルの後、細かく検証される事となったが、いまだ未解決の問題を多く含んだ、人工知能心理学のモノリスとなっている。

 HMX-12及び13は、純然たる研究の為に試作されたそれまでのHMXシリーズとは異なり、量産性に関する検討が積極的に行われ、それが反映された試作機である。事実、HMX-12と13の、部品共有率は、そのプロポーションの違いにも関わらず八割を越えている。この二体の基本フレームであるHMX-1x型フレームは、基礎設計の段階から各部の冗長性、モジュール拡張性が重視されている。この事から各種オプションや、HD-CNSあるいはSP-CNS(SP-CNS:Serial processing CNS:単一プロセス中枢処理システム)を選択して使用することが可能となり、一般的な用途から極限環境での使用も可能とするフレキシビリティも備えることとなった。

 HMXシリーズの中では最も派生型が多く、また様々な用途のための試作が行われたのもHMX-1x型フレームで注目すべき点の一つである。
 後の汎人機のステロタイプとなったHM-12型の試作機、HMX-12型をはじめに、主な派生型だけでも以下のようなものが存在している。

●HMX-12x
普及型(コストダウンモデル)であるHM-14のベース。
●HMX-12fx
一般向けスタンダードモデルの試作型(HMX-12とは異なり、各パーツのマイナーチェンジが施されている)。
●HMX-12ci/cx
ノイマン型補助電脳との連携で処理能力の向上を目指した高速演算処理支援タイプ。
●HMX-12si
HM/X-13に搭載されているサテライトシステムを発展させた超高密度通信システムを搭載。HMX-12siをノードとし、ノード以下に複数のHM/Xを連動させることによって通信拠点として運用する災害時緊急展開通信網の構築試験などが行われた。
●HMX-12vi/vx
HMX-12c系列を、各研究機関などから提示された実際のニーズに併せてマイナーチェンジを行い、あわせてノイマン型補助電脳の性能を向上させたもの。viはsiと同等の高密度通信システムを搭載していることから、本部と出先機関での情報や処理能力の共有が可能となっている。また、現地での情報収集やフィールドワークに対応するために基本フレーム自体も強化されている。
●HMX-13k/k2/k2e
宇宙環境での作業補助、または宇宙飛行士の作業代行を主眼に置いた極限環境型試作機。
●HMX-13c
医療機関での使用を前提とした低電子雑音型試作機。
●HMX-13b/b2
HD-CNS type2と同様の連鎖連想アルゴリズムをHD-CNS type3に採用した純粋な実験機。『笑う方のセリオ』『ドジな方のセリオ』『エミオ(笑みセリオ)』など、さまざまな呼ばれ方をした。
 これらのHM/Xシリーズは、一時期の来栖川重工のCMメッセージ『家庭から宇宙空間まで』をそのまま体現していた。
 しかし、その一方で、HM/X-12/13の名称をもつ系列試作体があまりに多くなりすぎてしまったために、一部開発関係者がHMX-14の名称を勝手に使うなどの問題も生まれていたと言われている。
(※:HMX-14の項でも述べられているが、HMX系列の機体形式番号とHM系列の製品モデル番号は、HMX-12/13とHM-12/13を例外として全く一致していない。混同されやすい部分でもあり、注意が必要である。)

 HMX-1xシリーズで最も重要視されたのが、ユビキタス・コンピューティング環境(HDFS)における統合されたマン=マシン・インタフェイスとしての役割である。
 HASSシリーズでは、家庭内やオフィスなどの環境において、HASSが周囲の組み込み型コンピュータ(例えば家電など)やパソコンなどを連動させる事で、ユーザーの利便性が大きく高まることが確認された。また、自らがその家電機器類のインタフェイスの役割を積極的に担うことによって、ユーザー側の電子家電コンプレックス(通称『ヨブ・コンプレックス』)を大幅に軽減させる事に成功していた。
 HM-1xシリーズでは、その思想を一歩先に進め、HASSシリーズと同等の電子情報家電のインタフェイス部としての役割を担うのみならず、部屋の掃除や整理、洗濯、調理、食器洗いなどの文字通りの家事一般をも、HMが自らこれを行うことも視野に入れられた。これら家事を行う人型ロボットに必要な基礎技術は、HMXシリーズ以前に試作が行われた、高度介護/自立支援支援システム・EX-HASSの基礎研究過程で確立しており、特に大きな問題はなかった。
 しかし、自律学習を重視したHMX-12は、それぞれの家事を効率よく行うための手順を自律学習によって修得する必要があった。つまり家事一般について『自分で勉強』しなければならなかったのである。

 HMX-13とは異なり、最後まで燃料電池型バッテリに装換されなかったHMX-12だが、その背景にはHMX-24と同型のトカマク型超伝導バッテリに装換する予定があった事が挙げられる。
 結果的にバッテリ単体での容量・定格供給電圧がHMX-13に比べて大きく下回ってしまったHMX-12は、フレームシステム(ボディ部)のブレーカーの遮断電流量を低く設定せざるを得なくなり、行動範囲が制限される一因となった。また、標準動作時間もHMX-13比で6割程度に留まっている。これはHMX-12の運動能力に大きな制約を課すこととなり、日常家事動作以上の運動能力を求められる様な状況化では、よくブレーカー遮断を引き起し、また容量の低さから、頻繁に充電をう必要があった。
 トライアルの後、HMX-12はHD-CNSの集積率を大幅に下げた廉価型中枢処理システムを搭載し、HM-12として量産された(実際は、HD-CNSの集積率を下げることはかえってコスト高を招くことが判明し、HMX-12型のHD-CNSをそのまま使用し、そのかわりOS上で動作制限を行っている)。
 しかし、このとき既にロールアウトしていたHMX-2xシリーズの研究開発を中止してまで、HMX-1xシリーズを採用しなければならなかった経緯については、来栖川重工社内でも社外秘事項とされているために明らかではない。一部ではHMX-12の、あまりに高度な自律判断能力に、上層部が恐怖に近い心象を抱いたからではないかと言われている。




HMX-13:セリオ

「そのとき、セリオがすごく悲しげに笑ったんです……そんな事、有り得ないのに………」
(セリオ開発班:曽根孝司)

HMX-13 HMX-12とともに実用試験用試作機として製作され、量産機候補となった試作機。
 設計をほぼ同じくするHMX-12と同時期にロールアウトしたが、HMX-12担当班の作業の遅れから、起動試験はHMX-13の方が三週間ほど先に行われた、『先に生まれた妹』である。

 HMX-13の設計は、同型の基本フレームを採用している事から分かるとおり、HMX-12とほぼ同一である。ロールアウト直後は、電源としてHMX-12マルチと同型の固定電解質型リチウムイオンバッテリを搭載していたが、研究施設内でのロードテストが終了後に燃料電池型バッテリに装換されている。
 燃料電池型バッテリシステムは、一次電池とは異なり水素の供給を必要とするが、HMX-13に搭載されたものはメタノールを水素源として利用している。つまりHMX-13は電力の供給のために『アルコール(メタノール)を飲む』事になる。そのため、HMX-13に搭載されている燃料電池は、熱効率が40%弱(公開された資料によれば38%)に制約されることになったが、『基本的に行動範囲のどこでも入手可能で安価、かつ比較的安全』なメタノールを水素源としたことは、HMXシリーズの開発目的からみても妥当なものだと言える。
 アルコールから水素を取り出す改質の過程で発生する水などの副産物は、最大出力時に100度近くまで温度が上昇する燃料電池自体の冷却に使われ、主に水蒸気などとして冷却呼気と共に体外に排出される(最大出力駆動時のHMX-13の全身は表面温度が40度以上になり、非常に熱くなる)。一部の開発関係者の間には「あの改質器なら、ビールは無理だが、焼酎やウィスキーなら大丈夫だろう」といった話もあったらしいが、HMX-13が本当にウィスキーなどの酒類から水素を取り出せたかどうかは実際に試されたわけでも無いために、定かでない。
 HMX-13はHMX-12と同じHD-CNSを搭載しているが、HMXシリーズの特長ともいえる、並行型連鎖連想アルゴリズムの扱いは大きく異なっている。HMX-12では自律学習・自律行動の決定要因の多くを並列連想処理を基準としたものに拠っているが、HMX-13は逆に知識データベース逐次検索処理を基準としている。これは、HMX-11で問題となった『予期せぬ自立判断』を回避するために採用された対症療法的な(しかし、長瀬開発部長が開発部を二つに分割してまで模索した)解決策であるが、これによってHMX-13は見かけ上『自律人格』を持たず、その為に、『反抗期』を抑えることが可能となった。
 しかし、並行型連鎖連想アルゴリズムに特化したHD-CNSに逐次検索処理を行わせた結果、自律(能動的)行動における柔軟な問題解決能力がHMX-12に比べて大きく低下することとなった。そのため、HMX-13自体のCNSのみでは目標とした自律問題解決能力の達成が難しくなると予想されたため、外部情報処理装置への依存度を高めることとなった。外部への通信頻度が高くなってしまった事から、マルチに比して複合センサ/アンテナも大型のものが装備されている。
 この欠点は、HMX-13の行動上の制約となって様々な面に影響を及ぼしたが、大型の複合センサ/アンテナをもつHMX-13は、外部データベースシステムとの即時応答リンクを行うことで、逆にこれを利点としている。このシステムは、来栖川グループの持つ低軌道周回通信衛星の回線を利用し、世界中のどこにいても(電波の届く範囲であれば、大気圏外であっても!)作業上、あるいは情報処理上必要なデータベースや外部情報処理装置へのアクセスを行う事ができる。これは、来栖川エレクトロニクス社の高級カーナビゲーションシステムに搭載されていた、リアルタイム地図情報更新システム・『サテライトサービス』を拡張したもので、呼称もそのままに採用されている。量産型であるHM-13にも採用された『サテライトサービス』は、本機を秘書として使用することの多かった法人ユーザーの高い支持を受け、後継機にも受け継がれている。

 HMX-1x型フレームを採用したHMX-1xシリーズは、主に技術的な問題から、味覚及び嗅覚センサの感度などの性能が人間に比べて大きく劣っていた。そのため、HMX-12/13はそれらを積極的に利用する必要のある家事作業、つまり調理などに関してはEX-HASSと比較しても高い成績を収めることはできなかった。
 特にHMX-12は、研究所内の作業試験においても、またトライアル時においても、調理作業の結果は惨憺たるものであったと言われている。
 HMX-13においても、同様の問題は残ることになったが、外部情報処理装置への依存率が高いことからレシピ通りの調理をこなす為、さほど重要視されることは無かった。その一方で、料理好きの一部の研究員からは『コンビニ弁当しか作れない』と揶揄されてしまう様な、HMX-12とは違った欠点を指摘されていることも事実である。
 だが現実問題として、最高級機種として位置づけられた後のHM-13に、家庭やオフィスでの調理を任せるような状況は、ほとんどありえず、それ故にこの問題の顕在化を避けることができたのではないかとも言われている。

 トライアル後、HMX-13は図らずも来栖川重工の最高級汎人機HM-13として量産化される事となったが、この決定についてはHMX-12型の採用が見送られた経緯と共に、その詳細は未だ明らかになってはいない。
 また、現在においてもHMX-13/HM-13が自律人格を持っていなかったのか、あるいは持てないのか、という疑問も解決されていない。来栖川重工から公開された資料の中では、不特定多数のユーザーからの指示を受ける環境にある場合、それらユーザーに対する『重み付け』を行うことはないとされている。しかし、それらユーザーから矛盾する指示を受けた場合、そのどちらの指示を優先するかについての判断基準に関する情報は開示されていない。人工知能心理学の世界においては、このような矛盾する指示に対して破綻なく行動決定を行えるのは、ユーザーに対する『重み付け』を行うか、自律人格によってその補償を行う以外にはないとされており、これらはHMX-13/HM-13の『秘められた自律人格』の可能性を伺わせている。

 現在、トライアルに使用されたHMX-13は、HMシリーズのために新規設計された部品の、実際の性能や耐久性などを確認するための、文字通りの『テストヘッド』として使用されて続けている。『汎人機の来栖川エレクトロニクス』の印象を決定的にした名汎人機『ひかり/たすく』の名で知られるHM-32/33シリーズも、HMX-13の存在無くしては誕生しなかったとも言われており、開発部内では『HMXシリーズの母親』という意味から『ママ・セリオ』の愛称で親しまれている。

 なお、『マルチ』はマルチパーパスが、『セリオ』はシリアル・シングルタスクが訛ったものと言われているが、来栖川重工R&Dでは、この見解を否定している。

 HMX-00やHMX-10/20のICEUとして使用された超々並列スパコンKEX-256/400と、HMX-10とHMX-11(bタイプ)、HM-12、13は、現在でも御奈山の来栖川重工R&D未来展示館で見ることができる。稼働状態ではないが、展示館の学術員の手によって、すぐにでも動作可能な状態に整備が続けられている。




HMX-14:(名称無し)
※幾つかの仮称があったが、いずれも正式名称ではない。

「彼女は、上層部の都合と開発部の事情、その二つのせめぎ合いと妥協の中で生まれそこなってしまったんです。」
(設計第二課:大竹孝幸)

HMX-14 量産化のための情報を得るために計画された試作体。
 HMX-12/13のロールアウト後に設計が開始された。時期的には、HMX計画の延長が決定され、HMX-25がほぼ完成した頃である。

 HMX-14は基本フレームとHD-CNSの抜本的ブラッシュアップを行い、量産化を前提としたHMX-1x系列の最終型、つまりHM-1x系列の先行量産モデルとなる予定で、当初から量産を前提にした設計が行われていた。最終的な基本設計によれば、たとえば、HMX-12/13に比べ、HMX-14の部品点数は約20%減っている。つまり、それだけ内部構造が効率的に再設計されており、販売時のコストダウンを強く意識している事が分かる。
 しかし、HMX-14の設計はその基本設計が完了した直後に、それを大きく変更することを余儀なくされた。
 実際の工場の生産ライン上で十数体が試作される予定となっていたHMX-14だったが、量産化のための詳細な情報は、HMX-12/13で行われた各種テストの中で充分なものが得られ、また、新たな試作体を製造することによる開発コストの肥大を恐れた来栖川重工の上層部が突如としてHMX-12/13がそのまま量産化のためのトライアルにかけるという方針を決定したことから、HMX-14試作は宙に浮いた形となってしまった。
 ところがHMX計画はクラッシュプログラムとして進行していたことから、実際の設計や部品の試作作業などは既に開始されてしまっていた。そのため、このまま試作を中断することは、HMX計画全体に混乱を来たすことになると判断した来栖川重工上層部は、開発部に対してHMX-14をHMX-1x型基本フレームに、HMX-24と同型の光回路CNSを搭載する計画に変更させ、設計を続行する様に指示した。
 これにより、HMX-14の設計と研究は、HMX-2x型基本フレームの試作と平行して行われるという、ある種、異常な形で進められることとなった。が、これもまたHMX-2x型基本フレームの試作が予想外の早さで完成した事から中断され、最終的には設計が完了する前にHMX-14の試作計画そのものが破棄されてしまった。
 このまま無駄骨に終わるかと思われた、HMX-14であったが、試作のための各種研究は、後のHM-12x/fxやHM-3x型基本フレーム設計の際に生かされる事となった。これは、HMX-12/13のトライアル結果に起因する、来栖川重工上層部の混乱とHMX計画の中断、HMX-2x型基本フレームの不採用の決定など、さまざまな要因が積み重なったためである。結果論ではあるが、HMX-14は、HMX-12/13とは違った意味で、後のHMXシリーズに大きな影響を与えたとも言える。

 よく混同されているが、HM-14(発売時名称『ピーチ』)は、HM-12の普及型(コストダウンモデル)としてHMX-12xをベースに設計されたものであり、HMX-14とは、直接的な関係はない。HM系列は、特にHM-12/13より後に発売されたHM-3x系列までのほとんど全てがHMX-12/13を元に再設計されたものであり、HMX系列の機体形式番号と製品モデル番号が同じであっても、設計上、全く無関係な場合がほとんどである。
 また、HM/X-12/13をベースにした試作体の一部(HMX-12si、HMX-13kなど)に対して、一部開発関係者が「HMX-14」という渾名を奉じたことから、HMX-14は既に完成していたという噂が生まれ、現在でも「HM/X-12/13より遥かに高度な能力を持っていた」「某国で機甲部隊の機械化兵として採用されている」など幾つかのバリエーションを持って語り継がれている(無論、HMXシリーズを兵器として採用した軍隊は、人間と比べての能力の低さやメンテナンスコストなどで破綻する事は間違いあるまい)。




HMX-20:ソア

「あの決定には驚きました。みんな驚いたと思います。だって、長瀬さん、モーター使わないって言うんです。」
(基本フレーム開発班:法子・グリム)

 HMX-2x型基本フレームの検証のために試作された動作確認用基本フレーム。HD-CNSは搭載されておらず、ICEUが接続されている。
 HMX-11の、その高度な基本性能に新たな市場開拓の可能性を確信した来栖川重工上層部は、HMX-12/13の完成を待たずHMX計画の延長を決定した。延長されたHMX計画(拡張HMX計画)では、もともとクラッシュプログラムであったHMX計画に対する人員や予算配分の自由度がさらに向上したため、長瀬開発部長は今まで基礎研究の段階であったいくつもの新技術を新型基本フレームに注ぎ込む事を決断、HMX-2x型基本フレームが誕生することとなった。HMX-20の完成は、HMX-12/13のロールアウトよりも早く、完成時期順でHMXシリーズを並べるとその順番は型版と大きく異なってくる。

HMXシリーズ完成時期
HMX計画 HMX-00HMX-10HMX-11HMX-1xpHMX-12/13   
拡張HMX計画    HMX-20HMX-25HMX-14(注1)HMX-24 
HMX計画終了後        HMX-26(注2)
(注1):HMX-14は設計終了前に試作が白紙撤回。
(注2):完成時期は拡張HMX計画中だが、起動試験は行われなかった。

 HMX-2x型基本フレームのHMX-1x型との最大の相違点は、アクチェータが電磁モーター型から光ファイバ型に変更された事である(編注:元来、単に『アクチェータ』と呼ばれるものは、通電によって動作を行うものをさして言う。光ファイバ型アクチェータは『光アクチェータ』と呼ばれるものの一種である)。
 光ファイバー型アクチェータは、以下のような特徴を有している。

  1. DA/ADコンバーターを介さず光伝導系と直接データ交換が可能であるため、変換による情報ロスを軽減できる。
  2. モーター型と異なり柔軟性を持った光ファイバの束であるために、設計上高い自由度を持たせることが出来る。
  3. 一つのアクチェータが数千〜数万本の微細アクチェータの集合体で構成されているために、一部損傷時でも不完全ながら駆動させることが可能であり、安全率を高めることができる。
  4. エネルギー変換効率が高い。

 これだけの利点を有しながら、HMX-2x型基本フレームはHMシリーズには採用されず、製品化される事はなかった。これは完全な新規技術である光ファイバ型アクチェータを基本フレームに採用した場合、競合他社製品に対してコスト面で不利になるという点と、各小売りチャネルからの整備面、部品供給面での不安が多く寄せられたためである。
 後に発表されたHM-2x/HM-3x型基本フレームもHM-1x基本フレームとの構造的な相違点は少なく、アクチェータ部品の性能向上などを行っただけのブラッシュアップに留まっている。
 同様の新規技術であり、小売チャネル等から同じ様な不安がよせられたにも関わらず、上層部が最後までHMXへの搭載にこだわり続けたトカマク型超伝導バッテリとは対極的な扱いがなされたのは、来栖川重工内での開発部門の力関係が如実にあらわれている。

 光ファイバ型アクチェータを開発したのは「開発八係」(現在の来栖川HMテック)である。開発八係は、クラッシュプログラムであったHMX計画に於ける各部門間の連絡や意思の疎通を計ることを目的として、特に設けられた係で、各部門からの出向者によって構成されていた。だが、開発八係にはHMX計画の当初から、各部門の技術者たちが集まり、次第に、お互いの専門知識と経験を共有する場として利用されるようになっていった。当初の設置目的とは、大きく異なった方向で、開発八係は大きく発展しはじめたのである。
 設置から一年もしない間に、開発八係は、独自にMX-10用の新素材部品の設計と試作を開始するなど、活発な活動を行いはじめている。こうした事から、計画関係者から一目置かれる存在となった開発八係だが、その後、HMX用のパーツや素材の開発の一部を担うなど、事実上の独立開発セクションとしての地位を確立した。
 来栖川グループ内のHM開発専門の子会社『来栖川HMテック』として改編されるまで、正式な部署としては認められることの無かった開発八係だが、HMX-1xpの発案や、実際の設計と開発を担当し、またHD-CNSの初期能動学習を受け持つなど、HMX開発計画に少なからぬ貢献をし、後の延長HMX計画では、HMX-26開発で中心的な役割を果たすまでに至っている。

 一方のトカマク型超伝導バッテリの開発を行ったのが、来栖川重工の発足当初からの主力製品であった大型発電機/電動発動機の研究と開発を担ってきた発動部である。
 来栖川重工内にある会社組織とも言える発動部は、開発部とは別に独自の開発部門を持ち、社内で強い発言力を持っている。発動部は、HMX開発計画の、その当初からトカマク型超伝導バッテリの使用を提唱し、超伝導バッテリの研究・開発に相当の予算と時間、人材を費やした。これらで費やされた金額は、当時の電動部の年間純利益に匹敵しているとも言われている。しかし、来栖川重工社内にあって独立採算制をとっている発動部内で、どのような動きがあったのかを知ることは難しい。
 数多の失敗と無数の試行錯誤から誕生したトカマク型超伝導バッテリは、一般民生用HMシリーズでの採用こそならなかったが、ライバルと目されてきたECSキャパシタとの住み分けに成功し、現在は中規模以上の貯電施設などに採用されている。




HMX-25:リーラ

「間違って、彼女に書類渡しちゃったんですよ。まさか、あれが試作体だなんて思いもしませんでした。」
(経理部:桑原翔太)

 それまで搭載されていた固体半導体型HD-CNSを抜本的に改良した回折光シャッター型光回路CNS(R&Dではこれを光ホロダイナミックCNSと呼称している)を搭載。完成時期はHMX-12/13のロールアウト直後だが、研究所施設内での基本能力試験が行われ、その後、社内で非公式な形での各種テストが行われた。
 HMシリーズの量産化に伴うHMXシリーズ開発終了を以て保全管理扱いとなる。
 動力源として、燃料電池型バッテリに代えて超伝導バッテリと同様、物理量で電力を保存し、常温での動作が可能なECSキャパシタの採用が検討されたが、全てを自社開発で行うことにこだわった上層部の意向により、実現はしなかった。

 HMX-25は基本的にHMX-13型の逐次検索・逐次処理の知能システムを継承しているが、光回路CNSの処理能力とあいまって、HMX-24との性能の差異はほとんど認められなかったと言われている。未公開情報が多いために性能の詳細は定かではないが、HMX-1xシリーズとは異なり、教えられなければ汎人機であることに気がつかなかった者も多かったようである。




HMX-24:ティア

「誰が、新入社員の中にうちの試作型メイドロボが紛れ込んでる、なんて思いますか?。」
(人事第三課課長:大瀧巌)

 リーラ型の光回路CNS(LDHD-CNS)と試作が大幅に遅れていたトカマク型超伝導バッテリが搭載された。マルチ型並列処理を継承した新型知能システムを採用。並列型連鎖連想アルゴリズムの光回路CNSへポーティングの遅れから、HMX-25より遅れてロールアウト。光回路CNSやトカマク型超伝導バッテリ(これは化学的にではなく、超伝導コイルによって物理的に電力を保存する)の安全性などの問題から、研究施設内だけで動作試験が行われた。
 各種動作試験、性能試験で所定の目標を達成したHMX-24は、バッテリをHMX-13と同じハイブリッド型燃料電池に換装し、来栖川重工R&D内での非公開エンデュランステストを受けることになった。このテストは、ティアを来栖川重工R&Dの新入社員『来栖るい』として一般社員と同様に出社させ、周囲の人間がHMX-24がメイドロボである事に、どこまで気がつかないかを試すという、ある種の耐久チューリングテストといってよいものだった。
 HMX-24はテストの行われた約八週間、何回か、その微妙な行いを指摘されたことはあっても、最後まで彼女がメイドロボであることを指摘する社員はいなかった。HMX-24は、普及価格帯での販売を前提とした汎人機の中で、当時としては桁違いの成績を叩き出したのである。

 HMX-12/13の妹たちとも言えるHMX-24/25に関しては、この他にも様々な憶測や予想が流れている。しかし、開発部部外秘が多い事もあり、その本当の姿は予想する以外にない。

 HMX-25と共に保全管理される。




HMX-26:(名称無し)
※『マルチ2』と呼称される場合がある。

「誰かが言ったんです『私たちは入れ物を作っただけで、彼女はそこに来ただけだ』って。私も、今はそう思います。」
(中央情報センター:高津信雄)

HMX-26 HMX-2x型フレームに、新型光回路脳を搭載した追加実証試験用試作機。
 ほぼ完成し、ロールアウト直前の状態だったが、HMX-12/13のトライアルの結果に対する来栖川重工上層部の混乱から、延長が決定されていたHMX計画そのものが突如として中断・終了させられたため、HMX計画の中では起動試験すら行われなかった。

 HMX-26はHMXシリーズ開発の中で培われたさまざまな技術・ノウハウの集大成として試作が行われた『HMXシリーズ最終型』とも言えるものである。
 安全性などの問題から、トカマク型超伝導バッテリではなく、燃料電池が搭載されている。これはHMX-13で装備されたものをベースに、さらに小型・効率化を行ったもので、カーボンナノチューブを利用した新型キャパシタと燃料電池を組み合わせたハイブリッド型のものである。開発八係が中心となって開発を行った新型キャパシタは、それまでの固定電解質(リチウム・ポリマー)型の数倍の容量を持つ。また、燃料電池側には、炭素新素材である超微孔二重グラファイトシートを採用し、さらに熱電対を利用する事でさらに効率を高めている。
 また、光回路HD-CNSもHMX-24/25型のものをブラッシュアップし、技術的に熟成させた新型のものを搭載している。
 HMX-2x型基本フレーム自体は、光ファイバー型アクチュエータの信頼性を高めることに重点を置いた改良がなされている。これは、駆動系に全く新しい技術を用いているHMX-2x型基本フレームは、この段階では、より高い性能よりも、より高い安定性・信頼性を求められた結果である。これにより、HMX-26は、より人間に近い作業能力を得たとされている。
 HMX-12/13においては解決することができなかった、味覚と嗅覚の問題に関しても、炭素系新素材を用いた新型センサを採用し、人間並みの感覚を持つことが可能となった。このセンサは、HMX-26においてテストされた後、HMX-3x型基本フレームの標準センサとして採用される事となり、感覚という面での汎人機の一つのブレイクスルーとなったのである。

 本機、HMX-26は、数奇な運命を辿った(辿りつつある)汎人機である。HMX計画、拡張HMX計画の中では起動すら行われなかったHMX-26は、当初は保全管理のため、来栖川重工R&D宮ヶ峰保全倉庫に搬送される予定だった。
 ところが、トライアルや長期耐久テストなどで使用されたHMX-12が基本フレームの設計寿命を迎え、廃棄処分される事になった際、これに搭載されていたHD-CNSの内容(記憶)は『人工知能心理学上、非常に貴重だ』という意見が開発部に持ち上がり、独自の判断で保存する決定が下された。そのHMX-12のHD-CNSの内容を維持保存するために、HMX-26が利用されることとなったのである。
 しかし、この経緯にはいささか不明瞭な点が多い。HD-CNSの内容は、採用されたホロダイナミックアーキテクチャの性質上、複製することが極めて困難で、事実上不可能と言われている。にも関わらず開発部は、内容の保存を決定してから、わずか一週間でHMX-12からHMX-26への全てのデータの転送を完了させ、起動試験を行っている。
 そのため、開発部外では、HMX-26はHMX-12をバックアップするために意図的に開発されたものではないかと見る向きも多い。HMX-26が、一般家庭内での耐久テストを継続中であるとされ、その詳細が部外秘とされている事から、その心象をなお強くさせている。


用語解説


ユビキタス
(ubiquitous)

 ラテン語。遍在(至る所に存在する)という意味。
 ユビキタス・コンピューティングは、マーク・ワイザー氏が提唱したもので、メインフレーム(一台:複数のユーザー)、パーソナルコンピューター(一台:一人のユーザー)と経て、一人が複数のコンピュータを使う第三世代を示している。
 ユビキタス・コンピューティングとはインターネットや家庭内LANなどにどこからでも接触(アクセス)可能な環境である事を示す。「パーバシブ(pervasive)・コンピューティング」ということもある。
 HMXシリーズは、HASS同様、ユビキタスコンピューティングが実現されつつある社会においての、ヨブ・コンプレックスなどのテクノストレスを軽減するためのインタフェイス部としての役割も与えられている。
(よく『ユキビタス』と書かれることがあるが、これは間違い。)


FTF(マルチモーダル)インタフェイス
(Face To Face Multimodal interface)

 自然語及び所作解析による命令認識システム。
 HMXシリーズの根幹技術の一つ。人間の自然語、所作を理解し、ユーザーの利便を計るもので、HASSがコンソールからの指示と対して変わらない、アクティブかつ明確な要求にしか応答できなかったのに対して、HMXはユーザーのパッシブで隠喩的な要求に対しても応答することができる(『思いやりのアルゴリズム』)。これは、競合他社製品に対してのHMXの極めて優れた特性の一つであったが、製品化されたHMシリーズにおいては、これらは実現されていなかった。

ホロダイナミック型中枢処理システム
(Holo-Dynamic Central Nerv System:HD-CNS)

 32ビットプロセッサの複合体。各プロセッサがそれぞれ64K〜1MBのメモリを持ち、それぞれ他の多数のプロセッサと並列的に接続されており、非同期的にデータ交換を行う事が可能なI/Oを有する。
 各プロセッサは、実行プログラム実体であるカーネルと、入力に対する出力の重みだけをメモリに蓄積しており、単一のプロセッサとして見ればそれほど高い機能を持っていない。


光回路CNS
(Light-Diffraction Holo-Dynamic CNS:LDHD-CNS)

 更に進化した形態のホロダイナミックCNSで、半球形状の光回路で構成されている。光回路網上で発生した光(出力)を他の光回路が入力として受け取る構造になっている。理論上、光速での演算処理が可能。ただし、固体中での光速は、真空中のそれに比べ、平均して60%前後となることから、固体半導体回路と比べて特異的に処理能力が優れているというわけではない。ただし、光回路の入出力は、文字通りの光であり、電流のように回路に制約されることがない。そのため、ある処理単位の出力を、不特定多数の処理単位が入力として受け取ることが可能である。これは光回路の重要な利点であり、また欠点でもある。
 光ノイズを防ぐために、外部はミラーコートされているが、駆動時の光回路CNSを見ると、虹色の光と干渉光とが美しく舞う姿を見ることができる。


ヨブ・コンプレックス
(Job complex)

 情報家電によるホームオートメーション(HA)化によって、一つのシステムと化した『家』(対象は、職場や住居などさまざま)に住む人々が、『家』に呑まれている(家という生き物に丸呑みにされている)という錯覚を起こして、HA化された『家』に対してプレッシャーを感じるという心的ストレス性障害の一種。聖書のヨブ記に示されているヨブが鯨に飲まれた事に由来する。


HASS
(Humanoid for Assistance and Support System)

 来栖川重工が生産し、来栖川エレクトロニクスが販売を行う人型介護/自立支援システム・HASS(Humanoid for Assistance and Support System)。心理学者R.Glen Hassとは無関係。


誤解し続ける思考エンジン
(Continuous Misunderstanding Thought Engine)

 人工知能の対象への(内部的な)認識が実際には間違いであった(人工知能側に誤解が生じていた)としても、その結果もたらされる自律判断や結果的な挙動などに関して問題がない場合は「認識が一致したもの」と仮定して人工知能の認識ミスを容認する事で人工知能側の処理を軽減し、実質的な処理能力を向上させるアルゴリズム。