06/26

お題目:さんくり(2)
 さて、そんな訳で当日レポートであります。例によっての、記憶違い、順番の前後などに関しては、掲示板なんかで突っ込んで頂ければ幸いでありまする。


 朝六時起床。在庫その他は前日に準備していたため、バックパックに詰め込むだけでOKだったが、それでも寝ぼけながらの作業には時間がかかり出発は遅れた。7時、最寄りの駅から新宿を経由して池袋へ。
 池袋駅着は8時半頃、んが、駅構内で迷い、サンシャイン方面に脱出するまで混乱。メガディク他の入ったバックパックはそれだけで重量物。そのバックパックを背負ったままサンシャインシティに到着した頃には、汗だくになっていた(笑)。
 9時を過ぎ、サークル入場が始まった頃に今回のサークルの代表者ねこねこ殿と合流し入場。サークルの準備を開始する。遅れて来た某氏が、新刊を自宅に置き忘れたと伝えてくる。つまり、シスプリのサークル内に配置されているにも関わらず、シスプリの本が無いという例によって例の如くの状況が無事完成(笑)。毎度のパターンとは言え、ここまで続くと笑える。
 準備を続けていると、何故かもんりーが来訪。すぐ側の壁際にサークルがあった(笑)。今回はガンパレードマーチ本だった様だが、そのゲームのことはさっぱり分からないので内容も半分しか分からない。もんりーのオプションキャラとして、黒鵜どん及び間王も来ている。黒鵜どんは未だに就職が決まらないとのこと。むぬう、不況はまだまだ奥深い模様。
 10時半頃トイレに行くと、エラい混んでいる。会場直前になってようやく空くが、かなりピンチな状況でありました(汗)。このあたり、Cレヴォやコミケとは違った傾向なので驚いたり。

 11時開場。周囲の壁サークルに人が殺到する。コミケやCレヴォなどでは見慣れた光景だが、サンクリも既にそうなってしまっていたのかと更に驚く。大手とそれ以外という二極分化はさらに進むのかも。うぬう。
 振り返って自分のところは、やはり大した事なし。ところが『gShot』の事を『シスプリのゲームなのか?』とか『夏はシスプリのゲームを出すのか』と聞いてくる方が結構居た。キャラもんは強いと改めて実感。11時半頃、平野が到着。早速スペースを空けてPowerBookG3を展開。『gShot』のデモを行う。しかし、このゲームには、ゲームのデモンストレーションが無く、結局誰かがプレイしなければならないという欠点が痛い。次はちゃんとデモモードを追加しようと心に決める。
 デモを開始すると、そこそこ人が集まるようになる。更に、メガディクを買い求める人も………。銀河帝国書院のリピーターの方だけではなく、新規に買い求められた人や、『メガドライブの朝』を買ったが新しい本が出ている事を知らずに…という方も多かった。メガディク微妙に強し(汗)。
 それ以降は、メガディクを中心に淡々と売れ続ける。『gShot』の方も、場所から考えれば善戦。やはり、PowerBookによるデモが強かったらしい。で、かなり意外だったのは、アルゴリズムのチェックのために作った次回作の動作確認プログラムを『gShot』の展示の合間にちょっとだけ動かしてみたのだが、これに予想以上の人が足を止めるなどして反応したことだったり。どんな画面だったかは、見た人ぞ知る訳なのですが……次回作の方向性にも影響しそうです。で、肝心の次回作なのですが、もう少しまともに動くようになったら公開しますので、もうちょっと待っててくださいね。
 途中で拝名殿のゲーム妖精辞典が冬に出るという情報を得たり(今度こそ出て欲しい(^^;)色々あったりします。
 閉会一時間ほど前に131の栗林殿が来訪。先日の怪我のことを詳しく聞く………って、一歩手前だった訳なのですね………シャレにならないであります。今度こそ養生してください。シャレ抜きで………

 4時閉会。早々に撤収するも、腹が減っていたので、会場外のアートコーヒーで少し休んだ後、秋葉原に進撃。『gShot』を委託してくれる同人誌販売店を探しつつ、うろうろ。
 7時頃秋葉原を出発し、9時帰着。そのあと、ファミレスで遅い夕飯にありついたりしたのでした。

 今回のサンクリは、売り上げは大した事は無かったのですが、色々考えさせられたり驚いたりする事の多かった即売会でありました。んで、次回なのですが、やはり参加しそうです。どうなるかは決まり次第またこのページで公表していきまする。例によって、小規模な即売会や、地方の即売会にも遠征する事も今後の重要な課題でありますので(特に、旅行の口実という観点で(笑))、『こっちの方に来てくれい』というリクエストなどもお待ちしておりまする〜。どりゃ!

 では、次回の更新をお楽しみに。

Number of hit:14370+14500くらい


06/24

お題目:さんくり
 おーつーかーれーさーまーでーしーたー>各位


 ってなわけで、突如参加の決定したサンクリも無事終了し申しました。
 んが、まだ出切ってない疲れが明日からずっしりとのし掛ってくることでありましょう(笑)。まったく唐突に参加が決まったために、当日レポートも大した事は書けないと思うのですが、それはそれということで、次回をお楽しみに(汗)


 んでもって、本日gShotを御買い上げいただいた皆様は、『gShotサポートページ』の方にCD-ROMプレスには間に合わなかった情報などがありますので、参考にしていただければ幸いであります。
 何か全部先送りですが、近日中に更新いたしまする〜。ぐー。

 では、次回の更新をお楽しみに。

Number of hit:14312+14500くらい


06/22

お題目:唐突ですが……
 唐突ですが、六月二十三日に東京池袋・サンシャインシティで開催されるサンシャインクリエイションに参加することになりました。いや、参加とは言え、委託させてもらっているだけですが(汗)


 って、本当に唐突で詳細がよく分からない状態なのですが………って、シスプリ?!聞いてないです!!………いや、正しくは、『シスプリって何だ?!』
 配置場所に関しては、コ03b「兄君さま詰所」である事は確認しておりますが〜。持っていくものは、例によって、メガディクその他、あとgShotの予定です。
 gShotは、PowerBookでのデモも予定しておりますので、画面を見たいという方は、お越し頂けると嬉しい限り〜。でも、何故にしすぷり?。


 そんなわけで、皆様の御来訪をお待ちしております。是非是非〜。

亜生命戦争異聞#10
  仕方ないこととは言え、待ち合わせ場所の本部のエントランスに時間通りに集まってきたのは古池とロブ、そしてマキネン氏だけであった。
 外にいた例のデモ隊の一部が、委員会本部の敷地内に火炎瓶を投げ込むなどして暴徒化し、大騒ぎになったのだ。
 暴徒は、三十分もしないうちに警備に当たっていた警官隊に取り押さえられるか、方々に逃げ出したが、本部の警備担当者や主な委員会メンバーは警察の事情聴取に付き合わされることになってしまった。
 ロブはホストであるダンツにメールを打ったり、直接通話しようと試みたりしたが、秘書(セキュレタリ)インタフェイスにやんわりと断られるだけ。
 しかしそれでも『三十分遅れる』という伝言だけは受け取ることができた。
 果たして、二人は一時間遅れて到着したが、ダンツは左手を包帯でぐるぐる巻きにされていた。
「どうしたんですか?」
 驚いて訪ねた古池に、ダンツは左手を振って答えた。
「いやいや、医療室の連中が大げさでね。」そう言いながら、目の前で包帯をほどく。
 幾つか大きめのガーゼをテープで固定してあったが、ダンツ自身が言うとおり、さほどの大怪我とは思えない。
「デモ隊の中に突っ込んで行ったとか?」と、ロブ。
 ダンツは笑って答えた。
「年寄りは、それ相応の状況で怪我をするものだよ。騒ぎが起こったとき、驚いて手を滑らせ、持っていたタンブラーを落として割ってしまったんだ…」
 そこでナラヤナスワミ委員が言葉を継いだ。
「で、このお年寄りは、年甲斐も無くその破片を自分で拾おうとして、手を切ってしまったというわけだ。」
 ナラヤナスワミ委員は古池と同じ程度の身長だが、太り気味の古池と違って、痩せ型で頬もこけている。しかし骨太で肌は浅黒く、研究室に篭るよりフィールドーワークを好むことを伺わせている。
「これは手厳しいな」
 きつい一言にダンツは苦笑した。
 古池らはナラヤナスワミ委員に会うのは初めてではなかったが、ダンツにこれだけ気さくに話すことのできる仲だとは知らなかった。
「お前は何でもかんでも自分でやろうとしすぎだ。若くないんだから、少しは人に任せたらどうなんだ?」
 ダンツはいかにもわざとらしく両手の人指し指で耳の穴をふさぎ、古池ら三人に呼びかけた。
「どうやら年を取ると、愚痴っぽくなるようだな。諸君、これは研究に値するテーマだと思わないかな?」
 三人が笑いをこらえているのを見て、ナラヤナスワミはうなだれて両手を挙げた。
「私の負けだよ。ダンツ。」
 その後、騒ぎのおかげでレストランの予約をキャンセルせざるを得なかった、とダンツは説明した。
 古池らには三十分だけ遅れると説明したが、実際は警察の事情聴取で、いつになったら解放されるのか見当がつかなかったというのだ。
「代わりの場所を手配する暇も取れなかったんだが…埋め合わせができそうな場所は確保できたよ。」
 ダンツはそう言いながら、古池ら四人を先導し始めた。
 エスカレーターとエレベータを乗り継ぎ、上へ登っていく。
 最上階近くなって、ようやくロブが口を開いた。
「この上にあるのは、議長室だけですよ?」
 疑問を呈する、というより下手なジョークに呆れたような口調だ。
「もちろん、議長室だけだが?」ダンツは言わずもがなといった様子で答える。
 古池とロブ、そしてマキネンは頭の上に巨大な疑問符を浮かべて最上階に着いた。
 委員会本部の中央棟は高層建築の一歩手前だが、それでも周囲から頭一つ抜け出している。
 意地の悪い言い方をすれば、周囲を睥睨する事ができるわけだ。
 そのような場所にアヴァロン委員会の議長室を作ることに、委員会内外に議論を巻き起こした事もあった。だが、そんな議論も人類全体の行き場のない不満や、国家間の緊張の高まる中でいつのまにか消えうせてしまった。
 エレベーターホールから廊下に抜けたダンツらは、途中にある扉の前に立った。
 扉は古池らの居る委員会支部研究棟(象牙の塔)とは比べ物にならない程しっかりした造りではあったが、それでも委員会本部の中央棟最上階とは思えない、せいぜい中堅企業の社長室といった趣のものだ。
 ダンツ委員が数回ノックすると、扉が開いた。
 皆にうなずいたダンツは、部屋の中に入っていった。ナラヤナスワミ委員もそれに続く。
 残った三人は顔を見合わせたが、二人の後に続くことにした。
 部屋は思ったよりも広く、古い言葉で言えばだいたい二十畳程。
 天井は高く、部屋の壁は本物の木材ではないが、落ち着きのある木の風合いを感じさせるものが使われている。
 古池らの正面は壁でなく巨大な窓になっていたが、今はブラインドが下ろされて外を見ることはできない。
 調度品や机、応接セットも相応のもの。そしてその部屋の主は、古池が持っていたイメージよりも大きく、堂々としていた。
「ダンツ委員、皆さん、待ってましたよ。」
 目の前に立つ、大柄な男こそ、アヴァロン開拓委員会第四代議長、エイドリアン・C・クラーク。
 前世紀最後のとも、今世紀最初のとも言われる天才物理学者だ。
 バリトンの深い響きを持つ彼の声は、それだけで委員会の混乱を収集させる説得力と、計画を前進させる推進力そのものと言っても過言ではあるまい。
「しかし、今日の騒ぎは大変だったよ。」クラーク議長はそう言いながら全員にソファをすすめた。
「あれから何か詳しい事は分かりましたか?」
 ナラヤナスワミの問いかけに、議長は首を横に振った。
「残念だが、新しい情報は何も得ていない。明日には報告書が上がってくるだろうが、いつも通りだろうな。」
 ダンツは皮張りのソファに腰掛けると、腹の上で両手を組んだ。
「人の行動は、量子の挙動より量り難いですな。」
「大きな質量のものを動かそうとするとき、慣性がそれ対する抵抗力として働くのは、物理の必然だよ。」
 クラークがそう応えると、ナラヤナスワミは笑った。
「慣性力制御の研究をしている男の発言とは思えないぞ。」
「もう研究じゃないよ。あと少しで実証段階だ。」
「あと四年だ」とナラヤナスワミ。
「間に合わせるさ。」クラークは笑った。
 と、そこでクラークは古池ら三人に気がついた。
 授業で立たされた学生宜しく、議長室の扉の横に、居心地悪そうに突っ立っている。
「ああ、気を使う必要はないよ。気にせず座ってくれ。」
 議長は三人にそう言ったが、気にしないのは無理がある。古池もロブも、結局は委員会の雇われ研究者である。委員会の最高責任者である議長を前にして、はいそうですか、とリラックスできる訳がない。単なる事務屋のマキネンにとっては、なおさらの事だ。
 クラークもそれに思い至ったのか、三人の前に出る。
「そういえば、挨拶がまだだったね。私は、まあ見ての通りだが、エイドリアン・C・クラーク、アヴァロン開拓委員会で議長をさせてもらっている。」そう言って、順に握手を握手をしていく。
 古池は思わず、クラークと握手した自分の手をまじまじと見てしまった。
 子供の頃、宇宙天文台の天文台長と握手した時の事を思い出す。
「古池君と、ローレクト君、それにマキネン君だったね。君等のことはダンツから、よく聞いているよ」議長は改めて座るように勧める。
 三人は、バカみたいに連なってぞろぞろとソファの前に進んで座った。
「いつもこんな感じなのかい?」
 クラークは呆れてダンツに訪ねる。
「議長殿はご自分の立場を過小評価しておられますよ。」
 ダンツは右手の指を眉間に押し当てながら応えた。多分、こみ上げてくる笑いをこらえているのだろう。
「ところで、皆夕食はまだだったんだね?」
 クラークの問いかけに、ナラヤナスワミが応じた。
「ええ、さっき連絡を入れたときの通りです。私が事情聴取で引っ張られていたおかげで、ダンツが予約していたレストランをキャンセルするハメになってしまって…」
「なら丁度良い。私もまだだし、ここの近くなら君等より多少詳しいつもりだ。」
 議長はそう言うと、秘書(セキュレタリ)インタフェイスと二言三言やり取りすると、机の後ろの衣紋掛けからコートを取った。
「っと、その前に…」書類棚の前に戻ったクラークは、名前を大書きした封筒を三つ取り出すと、古池とロブ、そしてマキネンに渡した。
「忘れるところだったよ。私からのプレゼントだ。封を開けるのは、帰ってからだぞ。」
 渡された封筒にはクラーク議長のものらしい文字でそれぞれの名前が書かれており、しっかりとした封緘されていたが、それ以外はごく普通の茶封筒だ。
 またも三人は顔を見合わせたが、その間にクラーク議長とダンツ、そしてナラヤナスワミは既にエレベーターホールへと行ってしまった。
 残された古池らは、慌てて封筒を鞄や懐に突っ込むと、議長らの後を追った。

 では、次回の更新をお楽しみに。

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06/17

お題目:亜生命戦争異聞#9
 古池が不本意ながらアヴァロン委員会の総会に出席し、そこで自らの研究成果とアヴァロンでの展望を発表し終わったとき、まだ十一時をまわってはいなかった。
 この、一年毎に訪れる不幸に対し、もし古池が拳を振り回し、口角から沫(あわ)を飛ばして抗議したとしても、大した同情は得られなかったであろう。
 四件もの中間報告書の提出を遅らせた古池に対し、委員会は経過報告書こそ提出させてはいたが、ダンツ委員らの純然たる好意から得られた尽力によって様々な処分を免れていたからである。
 結局は古池の自業自得であり、古池自身を含めた誰一人として委員会が無慈悲であると言うことはできなかった。
 演壇前の最前列の席でほとんど乾物と化している最古参の名誉委員達は別にして、ほとんどの委員は古池の発表に耳を傾け、的確な、あるいは的外れな質問を次々繰り出してきた。
 古池の担当は、テラフォーミング初期〜中期に必要となる大気と土壌の改善である。
 大気改善は、大規模な改善化施設を設置すると同時にナノマシンを用いたり、ロブの担当する生物化学的な方法も併用される。ただし、大規模な改善化施設が用いられるのは主にテラフォーミングの初期、人間が居留する環境改変基地の近くに幾つか設置されるに過ぎない。
 その中で浮かび上がってきたのは、古池自身が予想していたとおり、ナノマシンへのエネルギーの供給問題だった。
 今回の発表においては、ナノマシン自体にエネルギー源を持たせるのではなく、外部のエネルギー供給体から電磁波の形で供給する形を取る形態を提示したのだが、地表や空中であるならともかく、地中や海中ではこの方法を取るわけにも行かず、持ち帰って検討する事となった。
 こうして、委員会に雇われている身でありながら、その『不法な扱い』に耐えたという殉教者めいた勝手な自己満足に満たされながら、古池は委員会本部のラウンジで一息つく場所を探していた。
 少なくとも、今後一年は総会での面倒な発表を行わずに済む…中間報告書の提出を別にして。
 空いている窓際のテーブルを見つけ、どこだかの有名な工業デザイナが提供したという座り心地の良いラウンジの椅子に腰を下ろすと、古池はようやく安寧を得た。
 持ってきたトレイの上には、昼食バイキングのコーナーからの戦利品が載せられている。
 委員会の総会が開催されるとあって、ラウンジ・レストランのメニューも年に一度の特別メニューとなっている。しかし、古池を含めて年に一度しかここを訪れない大半の委員や研究員たちには、『普段のメニュー』がどんなものか連想するしかない。
 持ってきた食事をすっかり腹に収めた古池は、窓の外の景色を見ながら食後のコーヒーを味わう。自他共に認めるコーヒー中毒者だ。
 と、テーブルの上にトレイが置かれた。見ると、目の前の席にローレクトが腰掛けている。
 どうやら、ローレクトも発表を終えたらしい。
「なんだ何だ、もう喰っちまったのか?」
 古池はローレクトの不満には答えず、持ってきたトレイの上のメニューを批評した。
「肉が多めじゃないか?」
 フォークでカツレツを突き刺したロブは、ナイフでそれを二つにした。
「どうせ合成肉(まがいもの)さ。」そう言ってフリッタを食べる。
「ふむ、ローレクト君も、いよいよ『健康病』に罹患したと見えるな。」
「いまどきヨーロッパで、本物の肉を喰わせてくれる所があったら、教えて欲しいよ。」
 紫色のソースのかかった鴨肉のソテーを口にしたロブは笑う。鴨肉は、本物にしか見えない。
 ロブはしばし神妙な顔をしてから、香味野菜がどうのこうの、バルサミコ酢がなんのかんのと文句を付けた。
 味にあまり頓着しない古池には何の事だかさっぱり分からないが、とにかく酸っぱいらしい。酸っぱいなら、腐ってるんじゃないのかと思ったが、口にはしない事にした。
 こうした料理の件でロブに無知を諭され、目玉が飛び出るほど高いレストランに無理やり引っ張られて行って、講釈付きで難しい料理を自腹で喰わされたのは一度や二度ではない。こういう場合は、話題を変えた方が無難だ。
「ところで、発表の方はどうだった?」
 さりげなく話を振る。
「まあね。」と、ローレクト。
 前菜だった筈のスパゲティをフォークでくるくると絡(から)め取る。
 古池は眉をひそめた。こう言うときは大抵不機嫌な事が起こっているのだ。
「呼吸の問題だよ。」ロブは自分の問題ではないような口調で続ける。
「今のアヴァロンの大気組成は、ほとんどが窒素と二酸化炭素。あとは多少のアルゴンだ。最初のうちは二酸化炭素を固定するか、光合成反応で酸素と炭水化物にバラすかするつもりなんだが、大気改良菌のベースに使う嫌気性細菌に問題があると指摘された。」
「何が問題なんだ?」
「オプス…む、処理能力だ。大気改善の。」
 ロブは、トレイの上のロールパンを取って二つに割る。
「嫌気性細菌を使った大気処理では遅すぎるんだ。光合成細菌を併用するとしても、時間がかかりすぎる…酸素呼吸並みに効率の良い、そうでなければもっと効率的な代謝法を持つ細菌を探さないとならん。」
 片方のパンを口に突っ込み、二三回噛んでコーヒーで流し込む。
「問題は代謝なんだ。」そう言って、もう片方のパンは両手でサイコロ状になるまで圧縮し、文字どおり苦虫を噛み潰すようにして喰った。
 ロバートの言いたいことはよく分かったが、今は声をかけない方が良いだろう。
 古池は頬杖をつき、窓の外を見る。
 アヴァロン委員会の本部は自然との景観の融和をよく考えた建築物で、古池らが『象牙の塔』と渾名する研究棟よりもさらに広いグリーンベルトが取り巻いている。
 しかし、古池は、そのグリーンベルトの向うに大勢の人がいる事に気がついた。
「おいロブ。何だあれは?」
 ロバートは呆れたような顔をして古池を見る。
「少しは新聞を読め。ありゃ、我々の計画(アヴァロン)に反対してる宇宙環境保護団体や宗教団体の皆様だよ。」
 目を凝らしてみると、彼らがプラカードを持っているのは何とか見えたが、それ以上はさすがに分からない。
 古池は懐からメッセージパッドを取り出した。
 普段はこの手の情報端末を持ち歩かない古池だが、出張などの際には楊が必ず押しつけてくる。
 ほとんどの場合、楊からの、大抵は半日〜数日前に送信された『急ぎの連絡』を受け取る時にしか使わないのだが…
 電源を入れ、委員会のホストを介して本部周囲の映像を手に入れた。
 セキュリティやプライバシーに関する承認は、楊が作ってくれたデフォルトのものを適用する事にした。
 メッセージパッド各テーブルの上に設置されている赤外線アクセスポートを探し出し、数マイクロ秒で委員会のホストマシンとの回線を開く。
 数分の一秒という長い時間をかけて電子的な承認を行い、数メガバイト長の暗号鍵のやり取りが行われた後、ようやく求める画像にたどり着いた。幾つかのプロトコルを併用して転送された画像は、パッドの画面に表示された。
 なるほど、前世紀からの伝統的なデザイン、四角と棒で構成されたプラカードに始まり、全面にモニタパネルを貼り付け、動画メッセージを表示するものやら、複雑な動きをするものやら…前衛芸術にしか見えない不可思議な色彩とデザインのものまである。
 示されるメッセージにしても『宇宙の環境を保全せよ』『アヴァロン開発より福祉の充実を』『神の行いに背くことは許されない』など、実に様々だ。
 本部の周囲を取り囲む様々な団体の要求の根拠とする理論、理解できなくはないものから、何を言わんとしているのかさっぱり分からない物まで様々だが、要求そのものは基本的に同じだ。
『アヴァロン計画を中断せよ』
 いつの世にも、この手の人間は居るものだ。
 古池はため息をついた。
 メッセージパッドで楊からのメール(やはり今朝一番に送信されていた)を受け取り、一通りの返信を送る。
「そういえば古池、お前今日帰るのか?」
 ロブの問いかけで初めて帰路のことに思い至った。
 発表を無事に終わらせることだけ考えていて、帰りのことは何も準備していなかったのである。
「あー、考えてなかったよ。今日明日には帰りの航空券をもらってこないとな。」
「じゃあ丁度いい。ダンツ爺さんが、ささやかながら慰労会をやろうって言ってるんだ。」
 ロブの提案に苦笑して答える。
「おいおい、今回は財布にそんな余裕はないぞ。」
 自分のトレイを持って立ち上がったロブは、非難がましい顔をしてテーブルの上を紙ナプキンで無造作に拭く。
「お前、また日銀カード(納税者ID)しか持ってきてないのか?クレジットカードくらい作れ…」
 とここで、突然表情が代わった。眉毛を上げて笑う。
「とか、見識の狭いことは言わないよ。今回は、驚いたことにダンツが全部持ってくれるんだそうな。爺さん、この近所が故郷(いなか)らしい。」
「へぇ。」
 ダンツとのつきあいは、この委員会に招かれて以来の事で十年近いが、故郷がこのアヴァロン委員会本部の近くにあるというのは、古池も初めて知った。
「詳しいことは、おっさんに聞いてくれよ。それじゃ後で」ロブはそのままトレイを持ってラウンジの出口の方に向かった。
 メッセージパッドでダンツに慰労会のことを訪ねるメールを送ると、すぐさま直電が入ってきた。
「発表では随分と突かれていたようだね?」
 通話は音声のみだったが、ダンツの顔が見えるようだ。
 二言三言慰労や挨拶の言葉をかわすと、待ち合わせ場所と時間、そして慰労会の詳細を聞くことにした。
 慰労会には、古池とロブの他、委員会のメンバーでもあるナラヤナスワミ教授や、いつも世話になっているという実務担当者、マキネン氏が訪れるという。
 その繋がりがダンツらしくもあるのだが、何とも取り止めのないメンバーである。
 場所はここから数十キロほど離れた小さな街にあるレストランとの事だった。
 招待に謝意を伝えて通話を切る。
 さて、これから数時間は何もすることがない。
 取り急ぎする事も無ければ、やる事は一つ。古池は早速コーヒーをもう一杯持ってくることにした。


 亜生命戦争異聞の9回目です。
 はてさて、古池達は一体いつまで地球にいるのでしょう(汗)。
 これから、あーなって、こーなって、そうなるという骨組みは何となく決まっているのですが、まだそこまでたどり着けていなかったりします……もう少し手が早ければなぁ。
 更新は遅れ気味ですが、これだけは何とか続けていきたいなぁ〜。


 更新が遅れている原因は、主にこっそり進めている極秘の計画(何年越しなんだろう……)やら、新作であるところのブロック崩しの作成があったりするわけですが。そっちの方は、もう一方の方の掲示板(廃止されました)に、だらだらと進捗が載ってますので、興味がある方はそちらで突っ込んでやってくださいませ(笑)。ちなみに、またMac用です(汗)


 以上のような状況の元に色々進んでたりして、何だか更新が遅滞しているような気がするのですが、何やら突っ込んで頂ければ幸いでありまする〜。
 では、次回の更新をお楽しみに。

Number of hit:13933+14500くらい


06/10

お題目:亜生命戦争異聞#8
 下位意識がわたしを緩やかに覚醒させる。
 ざわめいている。
 何かの力が。
 波のように。
 寄せては引く。
 敵意。
 ではない。
 もっと純粋な何かが。
 眼下に広がる。
 雲海の下に。
 満ち溢れている。

 成層圏を抜け、対流圏に達しようとしている古池らに、何かが近づいてきていた。
「警告!亜生命体が接近中です。」
 緊張したセトの声。
 しかし、下位意識達は既に必要な情報を提供し、次の行動の決定を求めていた。
 古池は遥か下方より身を捩(よじ)らせながら飛び来る彼らの姿を見る。
 ヴァロタ・セピア(飛イカ)は大気改造の為に放たれた疑節足類。コンヴァーテレ・センティペダ(廻百足)は、擬節足類をはじめとした浮遊性・飛行性の亜生命の数を調整するために放たれた捕食者。インゲンス・ムスカ(巨蝿)は分解者だ。
 変異体ではないようだが、どうやら彼らの餌か何かに間違われているらしい。
 雲海の底が雷光に照らされたかの様に明るく光る。
 荷電粒子弾だ。
 作戦開始時刻までは、まだ数時間ある筈だが……下位意識は、フレディが攻撃を開始したと伝えてきた。
 古池は降下速度を早め、雲海の中に突入する。微かな、連続した衝撃波反応。
 さらに別の、荷電粒子弾反応。
 収束率やエネルギー帯域が先ほどのものと異なっている。
 ミュサも攻撃を開始したようだ。
 フランは隠蔽状態(ステルスモード)に移行したのか、古池の感覚器では捕らえることができない。
 雲が晴れる。
 雲海を抜けた古池は、その光景に一瞬目を奪われる。
 眼前に広がる、都市、森林、大洋、そして蒼穹。
 蒼と碧と白に彩られた、絶景のパノラマ。
 そして、光舞。
 美しいという言葉が陳腐に感じられるその絶景から古池の意識を引き戻したのは、人間には決して感じることのできぬ臭いだった。
 言葉で表現できる範囲を越えた、脳に直接伝達される臭い。
 フェロモン。
 周囲はヴァロタ・セピア(飛イカ)が吐き出した警戒フェロモンに満ちている。
 イワシのように集団で行動する彼らは、密に接近して行動し、フェロモンと微弱な生体電波で情報を交換する。
 個体が群れを成している、というより一種の群体に近い。
 フレディから放たれた荷電粒子弾は、その巨大な群体に穴を穿つ。
 どよめく様に震えた群れは、自らに穿たれた穴を瞬く間に飲み込むと、更にはフレディをも包み込むように広がり始めた。
 古池はミュサの所まで一気に降下すると同時に、自らの粒子加速器に反応炉出力をぶち込む。
 磁気シールドから洩れた磁力線が周囲に鮮やかな光の繭を紡ぎだす。
 下位意識はヴァロタ・セピアの群体内密度と行動可能性、フレディの位置などから最適な射撃ポイントを導き出す。
 しかし、その指示を無視(オーバーライド)すると、勘だけで適当な偏差を与える。
 確信や経験でそうしたのではない。
 どこまでが自分が確かめられない程に一体化した下位意識とメカニクス、そして機体(ボディ)に従属するのが嫌だっただけだ。
 射撃指示。
 粒子加速器に詰め込まれた粒子達は、磁力という足枷を外され、収束エネルギー弾となって雪崩をうって出口へ殺到する。
 全身に衝撃が走る。
 古池は、下位意識や機体(ボディ)でなく『生身の自分』が感じた衝撃であることに驚いた。
 まだ、自らのものとして感じ取ることのできる感覚が残っていたのだ。
 ヴァロタ・セピア(飛イカ)の群れはフレディを包み込まんとして、広く薄く拡がっていた事が仇となった。
 収束エネルギー弾によって群れは四散し、バラバラになった個体は突如他の個体との繋がりを失ったことに対応しきれず、散り散りに逃げ回った。
 そこへコンヴァーテレ・センティペダ(廻百足)が突っ込んできた。
 群れからはぐれたヴァロタ・セピア(飛イカ)は、彼らの格好の餌だ。
 さらに言えば、古池達でさえ、彼らからみれば餌としか見えないかもしれない。
 古池はフレディの為に、ヴァロタ・セピア(飛イカ)にもう一撃を加えるか躊躇した。コンヴァーテレ・センティペダ(廻百足)はすぐそこまで迫っている。
 しかし、彼らは餌にありつく前に爆散した。
 ミュサの収束エネルギー弾の直撃を受けて、ゆっくりと燃え墜ちてゆく。
 古池らの下ではインゲンス・ムスカ(巨蝿)が飛び交い、燃え残った残骸を奪いあっている。
 全周を索敵する。
 ヴァロタ・セピア(飛イカ)の逃避フェロモンが満ちている。
 もう襲われるような事はなさそうだ。
 散り散りになった彼らは、彼方で騒ぎを感じ取ってやってきたコンヴァーテレ・センティペダ(廻百足)に襲われながらも、巨大な群という体を取り戻しつつある。
 下位意識から、作戦のための推奨軌道から大きく逸脱してしまったことを指摘された。
 今の戦闘の間に、相当降下したらしい。地平線は円みを失い、既に森の木々の一つ一つまでが明確に識別できる。
 作戦開始高度に近い。
 古池は母艦へ回線を開いた。
「作戦に何か変更は?」
「いいえ。今の戦闘での作戦変更は行われないようです。他には…フランさんがまだ隠蔽状態(ステルスモード)から戻っていないだけで、問題らしい問題は見あたりません。」
「そうか。」
 セトに作戦開始時間まで待機することを告げると、古池は位置を固定し滞空する。
 侵入経路を確認した。
 視界の全てを埋め尽くす碧の沃野と蒼穹、そして今は地平線の彼方にある開拓都市。グリーンヒル。
 やがてこの星に住まう人々の為に、大地に打ち込まれた礎石。
 その名は、一世紀前のSF作家の小説『地球の緑の丘』にちなんでつけられた。
 都市建設のための作業員と移民の第一陣を受け入れるために、アヴァロンに初めて建設された都市である。
 アヴァロンを周回する極軌道衛星群からの映像だけでは、なぜグリーンヒルが建設途上で放棄されようとしているのか、知ることはできない。
 しかし、変異体と化した亜生命達は、その奥深くに潜んでいる。
 そして全ての引き金となった、変異ウィルスもまた……
 古池は軽い衝突(コンフリクト)を感じた。
 変異ウィルスに感染し、亜生命と融合した自らの体と、人間としての知識も経験も通用しない別の段階に変化することを拒む精神。
 今でも下位意識との接触は、常に高いストレスの下で行われる。
 常に自らの記憶・精神・感情を他者に検索され、精査され、ミスや過ち、任務遂行に支障のあるものは、必要と有らば意思とは無関係に書き換えられもする。
 母艦(マザーシップ)の記憶バンク、アヴァロンを周回する静止衛星、極軌道衛星、自らの機体(ボディ)に装備された様々な感覚器。
 それらからもたらされ、有無を言わさず古池の脳へと流れ込む無数の情報。
 その様な状況に耐え得るように、人は進化してはいない。
 だが、古池は自らが人と言えるのか、そして、果たして自分は、かつてそうであった様に自分だと言えるのか、分からなくなってきていた。
 機体が動揺を始めた。
 中枢たる古池の意思と衝突(コンフリクト)を起こし、制御を失いかけているのだ。
「博士(せんせい)!」
 母艦の方にも古池の心の動揺が伝わったようだ。
「すみません。作戦遂行に支障の無い様に、鎮静処理を行います。」
 古池の意思とは無関係に、母艦(マザーシップ)の管理下にある下位意識が行動を開始する。
 機体(ボディ)側の器官が沈静効果のあるペプチドを放出し、それは皮膚を介してまたたくまに古池の全身を駆け巡る。
 あれ程心を騒がせていた問題が、何かに洗い流されるかの様に消えてゆく。
 それと同時に少しづつ意識が遠のいてゆく。
 何かに抱(いだ)かれるように。
 たどり着けぬ眠りに落ちる。


 んなわけで、亜生命戦争の8回目です。
 じっくりと読んでいただいている方はお気づきの事と思われますが、実は、細かいところでかなり色々変更されております。幾つかの固有名詞が変更されていたり………。しかし、更新記録の中に組み込まれてしまっている為に、過去にさかのぼって差し替えるのも面倒なので、そのままにしておくことにしました。
 既に前後の記述が一致していないのがアフランとミューゼの名前(?)でアフランが『アルフ』から『フラン』に、ミューゼが『ミュラ』から『ミュサ』に変更されています。
 ある程度たまったら、校正した分も含めて本の形で公開していきたいと考えておりまする。


 本日の判定ものです。
  ●あなたのオヤジ度チェック(他)
 (注意:JavaScriptを有効にした上、cookieを受け取る設定にしていないと試せません。)
 ちなみに管理屋の結果は………94歳。ゴールデンオヤジでした(業泣)。

 では、次回の更新をお楽しみに。

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06/06

お題目:うわぁ(汗)
 ここしばらく、ブロック崩しのアルゴリズムをいろいろと……いや甘く見ておりました(汗)。まともに作ろうとすると、ここまでややこしい問題を含んでいるものとは………
 とりあえずのものを試作したのですが、どうしても色々と条件分岐を行わなければならなくなりそうで頭を悩ませていました。で、某現役プログラマの方に助言をうけて、結局0から作り直すことにしました。むぬう、傍目八目と言うか、よくよく注意しないとすぐに『自分流』という迷路に没入してしまうのは気をつけないとなぁ(汗)。
 …大学受験のときも、こんなに真面目に勉強したことないぞ(笑)


jpg画像 本日の目玉〜。詳しい説明は置いておいて、とりあえずじっくり見てください。
 ………………うおおおお。まさか、この目でパッケージを見ることができるとは………しかも、このパッケージ、微に入り細に渡ってイカすです。ボッ君、青くて丸いし、ミーナの通っている幼稚園の名前は『立花魔女幼稚園』だし(名前に何か深い意味がありそうな、なさそうな)………しかし、惜しいなぁ。このパッケージのまま発売してくれれば……。問題あったかも(笑)。ゲーム雑誌では確認できなかった(と、思われる)様々な極秘情報が山盛りだし。
 気になる方は、目を皿のようにしてチェックだ!(汗)。
 なお、パッケージ裏の灰色の部分は、ゲーム中の画面をはめ込むためのものとの事でした。
 パッケージ画像を提供してくれた某氏に感謝感激(^^)。


 ベクトルの計算だとか、円の接線公式だとか、色々あってだんだんと煮詰まってきているのですが(笑)、亜生命戦争異聞だけでもなんとかやっていこうと考えております。うう、簡単なベクトル演算の参考書買ってこないとなぁ(汗)。
 あと、だらりだらりと書き綴るこちらの話題とあんまし関係が無いので、こちらの方の更新記録には書かれておりませんが、『gShotサポートページ』の方もボチボチと更新されております。MacOS用のゲームですが、興味がありましたら、見てやってくださいませ〜。


 んでもって、ディスクの容量の関係から古いグラフィックを一部削除することにしました。ご了承くださいませ〜。
 しかし、ディスク容量の限界とは………これは根が深そうな問題だなぁ。サイトそのものの構築し直しを考慮する必要が出てきたのかも(いや、既に『そうしなければならない』という段階だ)。

 では、次回の更新をお楽しみに。

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06/04

お題目:亜生命戦争異聞#7
 それから全ての報告書を提出するまでに、数日経ったのか、数週間経ったのか、古池にはさっぱり分からなくなっていた。
 古池の助手達にしてもおなじようなもので、毎日家に帰って風呂に入らなければ気が済まないという楊を除いて、研究室にいる時間の方が遥かに長い状態が延々と続いていた。
 その当然の帰結として、古池が全ての報告書の提出を済ませた頃には、研究室の中には一部は仮眠の為の敷物と化したプリント資料の山と乱雑にディスクが突っ込まれた箱が散乱、毎食の弁当や飲料類の空き容器が絶妙なアクセントを加えている、といった状態になっていた。
 もちろん楊はこの状態にかなりの抵抗を感じたらしく、暇を見つけては掃除してはいたのだが、いかんせん楊自身もシミュレーション・プログラムの作成などを任されていたため、研究室を全て整理する程の時間を探し出すことは無理だったらしい。結局、研究室は斯くの如しとなってしまった訳である。

「おーい、古ち……うわ!」
 ノックも抜きに古池の研究室の扉を開けたローレクトは、その室内の惨状よりも、臭いに驚いた。
 汗臭いと言うか、男臭いと言うか、生臭いと言うか、腐敗臭と言うか。その臭いを上から覆い隠すような強烈な洗浄剤の、とにかく、塩素のような、アンモニアのような目にしみる臭いが充満している。
 化学実験の最中とも思えたが、マイクロマシンやナノマシンの設計試作が主な仕事となっている古池の研究室でそんな事がある訳がない。
 ローレクトはおそるおそる研究室の中を覗き込む。
 中では、古池の助手らがマスクやら掃除機やらを装備して部屋の清掃に当っていが、肝心の古池の姿は見あたらなかった。
 古池の監視役とも言える楊もいない。
 ローレクトは仕方無しに手近にいた助手に聞く。
「オーバル君だったっけ、古池の居場所、知らんかね?楊ちゃんでもいいよ。」
 不要になったプリント資料をリサイクルボックスに詰め込んでいたその助手、オーバルは、首を横に振った。
「古池(せんせい)、今日来た?」オーバルは、研究室の他の助手にそう呼びかけるが、返事がない。
 振り向いて一人の助手を見るが、何日前のものか分からない飲み止しのペットボトルや缶ジュースを洗面台に捨てていたその助手は、両手のひらを上に向ける。
「今日はまだ研究室の方には来てないみたいです。楊さんは…今日は公休日(おやすみ)取ってますね。僕ら、楊さんに言われているんですよ『あんたらが散らかしたんだから、今日のうちにちゃんと掃除しときなさいよ』って。」
 ローレクトは苦笑すると、古池に『自分の研究室に来て欲しい』と伝言を頼むと去っていった。
 掃除は助手らの手によって黙々と続けられ、昼の声が聞こえる頃、次の来訪者が現れた。
 ダンツ委員と、古池の直接の上司にあたる委員会メカトロ部門の顧問、コスナー博士だった。
 コスナーは、ダンツの頭が肩に来るほどの長身で、ローレクトよりも更に一回り大きい。
 身長は180を優に越えるが、がっしりした体格と堂々とした立ち振舞いのおかげで、見た目は2メートルを越える巨体に見える。
 二人が訪れる頃には、室内の臭いは、窓を開けて追い出したり、消臭スプレーでごまかしたりする事はできたが、分別したゴミは、コンテナボックスに詰め込まれ、研究室の片隅に山積みされている。
「あー、古池君は、在室かね?」
 ゴミの山に、あからさまに怪訝な顔をしてコスナーが訪ねる。
「いえ。古池博士(せんせい)は、今日はまだ研究室(こちら)の方にはいらっしゃっていませんが……報告書の方に何か問題でもあったのでしょうか?」
 コスナーは懐から眼鏡を取り出して、手に持っていた紙を見る。
「いいや、逆でね。報告書が委員会の方で無事受理されたから、その事を伝えに来たんだ。」
「ついでに、一緒に昼食でも、と思ってね。」ダンツが脇から首を出して、コスナーの言葉を継ぐ。
 二人は、間に合うようなら、と古池に食堂の方に来るように伝言を頼む。
 助手は丁重に承ると、研究室の壁にある、連絡用のホワイトボードにその旨を書き込んだ。
 それから数時間後、今度は休むと言っていたはずの楊がやってきた。
 日は少しづつ長くなってきたとはいえ、いよいよ本格的になってきた寒さを肌身で感じているようで、桃色と白の毛糸で編まれた大きなミトンの様な手袋をし、同じ色の毛糸のマフラーで首をぐるぐる巻きにしている。
 大きな箱の入った手提げバッグを手にしている。
 楊は、研究室内を見渡すと、分厚いコートを衣紋掛けに掛ける。
「随分綺麗になったじゃないの。」
 満足そうに頷いた楊は、助手らを労うためにお茶の準備を始める。手提げバッグの箱の中には、全員分の手作りのクッキーが入っていた。
 モップで床を拭いていたオーバルが、楊にロブとダンツ委員、コスナー博士の来訪を告げた。
「博士(せんせい)、今日は公休日(おやすみ)じゃなかったと思うんだけど」楊はため息を一つ。
「まあ、連絡用のボードには書いてあるし、私から博士(せんせい)にメール打っとくから大丈夫よ。」
 そう言って、カンファレンスや打ち合わせのときに使う大きな机の上にクッキーとお茶を並べた。
 研究室の大掃除も一段落し、古池以外の全員が揃う。
 それぞれが、大きさも色も材質も個性豊かな自分のカップに、なみなみと注がれた紅茶をそろそろとすする。
 一杯目のお茶を飲み干す頃、研究室の扉がノックされた。
「どうぞー」
 助手の一人が答えると、扉の向うからフレッドが顔を出した。
「あのー、古池博士(せんせい)いますか?」
「今日は来てませんよ。」
 そうですか、と、フレッドが首を引っ込めようとしたところを楊が引き止めた。
「お茶、飲んで行きません?」
 フレッドは少し躊躇したが、顔見知りの他の助手が手招きしているのを見ると、笑って研究室の中に入ってきた。
「んじゃ、遠慮なく」
「お前は、お茶だけ。クッキーはやらないぞ」
 オーバルが真ん中の大きな皿に並べられたクッキーをほおばると、研究室の中の助手全員が笑った。

 夜、研究棟の廊下を歩く古池の姿があった。
 ここ数カ月の疲れが一気に出たのか、今日は夜になるまで眠りこけていたのだ。
 起きたときは、疲れを取るためにも早く寝ようと考えていたのに、結局研究室に足を運んでしまったのだ。
 扉の前で、ポケットに手を突っ込んで鍵を探す。
「こりゃ、ワカーホリックかな?」
 そうは言ってみたものの、古池は自分がそこまで仕事熱心だとはとうてい考えられなかった。
 研究室の鍵を開けると、照明をつける。
 昨日までのゴミ溜めの様な様相が嘘のように綺麗になっている。
 汚いのは嫌だが、これだけ綺麗だと何となく落ち着かない。
 古池は端末の電源を入れる。
 ふと見ると、モニタスクリーンの前に、小さな皿に盛られたクッキーと古池のコーヒーカップ(これもすっかり綺麗になっていた)そして保温ポットが置いてある。
 皿の下には二つに折られたメモ用紙が挟まっていた。
 丁寧な書体で書かれたメモ。楊の字だ。
『連絡はメールとホワイトボード。クッキーは今日中に食べてください。ヴェルディア・T・楊』
 おやおや、公休日(やすみ)を取ったはずなのに。
 ワーカーホリックに罹っているのは、自分だけではないらしい。
 保温ポットを開けると、カップに注ぐ。
 ポットの中には、コーヒーが入っていた。
 コーヒー好きの古池の事を考えた、楊らしい配慮だ。
 これで晩酌はできなくなったな。
 そんな事を考えつつ、クッキーを一枚。
 古池は、久方振りに手に入れたこの夜の時間をゆっくりと楽しむことに決めた。

 では、次回の更新をお楽しみに。

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