KACounter



12/26
お題目:冬コミ新刊予告

トロ?
 いや、今さら新刊予告ったって、ねぇ………(涙)、分かっちゃいるんですが、行ってみましょう。


  • STAR CRUISER THE NOVELIZATION #2(コピー・25P以上)《冬コミ新刊》
  • 『メガドラスイッチ+』ザ・メガディクショナリ・ミニ(コピー・32P)《冬コミ新刊》
  • 『生命≒亜生命?』亜生命戦争異聞#2(仮題)(コピー・25P以上)《冬コミ新刊》
  • "BE JUST BEGINNING" STAR CRUISER THE NOVELIZATION #1(オフセット・78P)(残部僅少)《夏コミ新刊》
  • 『さあ、大変』(オフセット・88P)《夏コミ新刊》
  • 『gShot〜銀河皇帝怪進撃』(CD-ROM・MacOS用シューティングゲーム)
  • 『あにまちゅろん!』(CD-ROM・MacOS用シューティングゲーム)
  • “きっと愛のせいね!”THE MEGA Dictionary POLTERN(残部僅少)
  • その他、何か(笑)。
(特に表記のない本のサイズは、B5版です。)


 ゴメンなさい、今回、新刊は全部コピー誌です………理由にならんのは分かってるのですが、とにかく時間がなくて………
 待望のSTAR CRUISER THE NOVELIZATION #2は、『スタークルーザー』のノベライゼーションの2冊目です。コピー誌ですが、いよいよ盛り上がりつつあります。もちろん作者はSITE URDCATのうるにゃん氏。『第三の純正のスタークルーザー』です。"BE JUST BEGINNING"を買い逃した方!、今回も出ますので、お見逃しなく!
 『メガドラスイッチ+』ザ・メガディクショナリ・ミニは、例によっての例のモノです。今年9月に開催された『せげいち』で販売されたバージョンを増補改定、プラスが付いてお買得です。内容は毎度のアレですので(最近は既にメガドラ辞書でも何でもなくなってますが(笑))、気が向いたらぜひぜひ〜。
 『生命≒亜生命?』亜生命戦争異聞#2(仮題)は〜、ゴメンなさい、一年半ぶりです(涙)。ようやっとまとまった形で出せますが、まだコピーです………予算の関係で、あんまし数が作れませんが、多分残るので安心です(笑)
 メガディクは、夏コミにて完売した『BRAVO!』に続き、『POLTERN』が、多分最後の御蔵出しです。二〜三十冊くらいしか無いので、欲しい方はお早めに。

 例によって、上記の各本は、売りきれなければ、三日目、東3ホール、『エ』−38a『Black Dwarf』でも販売されますので、『俺は欲望の人だからな、三日目にしか参加しないぜ』という男気丸出しの方は、こちらをチェックして頂ければ、幸いです。こっちも余程の事が起きない限り、新刊が出る予定です。

 ではでは、会場にてお会いしましょう。

Number of hit:39953+14500くらい


12/03
お題目:むきゃきー!

うるど 修羅場が過ぎて、地獄が来ました。
 この週末、印刷所に行ったら、叱られました(爆)。曰く、『ちょわー!間に合うかー!』
 ………ごめんなさい(泣)


 んなわけで、某用の原稿とお仕事原稿一本は入稿(無事かは、編集さま次第〜(大汗))。残るは、大物一本と、冬コミ用。
 うぎゃわわわわ!、うわーん!(涙)


 んなわけで、しばらく沈没しているかもしれません。
 掲示板かなんかで召喚していただければ多分、発生しますが………発生しなかったら、それこそ危険が詭激的に大ピンチな状態だと思ってくださいませ。
 そんなこんなで、本サイトも39000ヒット突破であります。毎度ご覧頂いている皆様には、感謝の言葉もありませぬ。今後ともよしなに(平伏)。
 しかし、記念CGも何もできないー。せめて4万ヒット突破のときには何かしたいなぁ………ハメはずして(笑)
 では、次回の更新をお楽しみに………たすけてー

Number of hit:39084+14500くらい


11/19
お題目:冬コミ

 修羅場ってます。どんどん修羅場ってます。
 とか言いつつ、冬は、この本の暫定版だと思います。タイトルはまだ未定でし。はい。




 結構辛いなぁー。時間的余裕が………
 今月末と来月中ごろに締め切りがあったりするので、オフセット本は果たして出せるかどうか………非常に心配なのですよ。
 描きたい/書きたいものはあるので、ネタ的には問題無しなのですが。
 『亜生命戦争異聞』は、コピーでどうにか、とか考えています。オフセット化は、今回はちょっと無理かも。
 ああ、遊びに行きたいなぁ〜。

 では、次回の更新をお楽しみに。

Number of hit:38888+14500くらい


11/19
お題目:出ましたー

 修羅場ってます。キイキイ(ヒステリー)(c)大滝よしえもん
 冬コミと、某用の原稿と、お仕事用の原稿二本。そんな四重拘束の状態ですが、みなさまキイキイしてますか〜。るんたった(錯乱)。
 んなわけで、今月のお仕事の本が出ました。今回は雑誌記事が二本。『C MAGAZINE』12月号最新開発環境レポートMacPower誌のの連載『パソコン電脳ゼミナール』の第二回です。
 気が向いたら、是非読んでくださいませませー(気に入ったら、買ってね(^^;)。

 うおお、ムキー!!、ぎょわー!

 では、次回の更新をお楽しみに。

Number of hit:38500+14500くらい


11/18
お題目:亜生命戦争異聞#24とか、コミケとか……

えっとね そんなこんなで、『銀河帝国書院』は無事当選し申しました。有り難たや〜。


 サークル配置場所は、二日目、日曜日の東5ホール、“タ”−08aであります。また、『Black Dwarf』も無事当選致しました。三日目、月曜日の東3ホール、“ラ”−38aでありまする。こちらも是非是非ー。
 しかし、気がついてみれば、あと一カ月半。一体何が出来るのかー!!。予告してた「メガドラスイッチ」もオフセットじゃ間に合いそうにないし………(号泣)

 ではでは、亜生命戦争異聞の第24回です。


 シャトルが航宙艦の間近に迫って、はじめて気がついたものがある。
 航宙艦を包む足場の存在である。
 最初は蜘蛛の糸のように見えた艦首と艦尾をつなぐ二本の支柱は、実際は直径数メートルもの太さのある巨大なものだった。
 そして、その支柱、あるいは航宙艦の船体として組み込まれた大型旅客航宙船のブロック、巨大なエンジンブロック、とにかく航宙艦全体を包み込むように、細い細い網のような構造物がとりまき、その中を白い小さな蜘蛛たちが動き回っている。
 その蜘蛛たちが空間作業士とそれを助けるMMS(空間作業及び移動補佐システム)であることは古池にも分かったが、これだけ大人数の作業士たちが一堂に会し、そしてこれだけの巨大な航宙艦を建造していることに、驚きを憶えた。
 古池は航宙艦の周囲を見る。
 建造中の航宙艦を囲む蜘蛛の糸のような構造物、つまりは建造のための足場。
 航宙艦に横付けするように停泊し、足場と半ば一体化して、それ自体が建造のためのドックと化している大型作業艦。
 そして、物資を運ぶための輸送艦。
 足りない。
 肝心なモノが見当たらない。
 普通、空間作業士は無重量化での様々な問題を防ぐため、6時間の無重量空間下での作業に対し、約18時間に及ぶ高重力空間下での休息を義務づけられている。
 もちろん、この場合の高重力とは、0.8G以上の重力加速度の事をさし、木星の重力井戸の底のような、猛烈な重力加速度の事を言うわけではない。
 だが、あれだけの数の空間作業士の為の遠心重力区画となれば、それが円筒型だとすれば、規模はざっと半径数十メートル、長さは百メートルを下るまい。
 しかし………無い。
 首を巡らして、狭い客室の窓から航宙艦の周囲を探しても、遠心重力区画やそれにとって代わりそうな施設は見つからない。
 古池以外のシャトルの乗客も、何人かが遠心重力区画が無いことに気がついたようで、ざわめき始めている。
 ダンツに聞こうかと、横を見る。ボンボンの中のアルコールがまわってきたらしく、微かに赤みを帯びた頬に笑みを浮かべて航宙艦を見ている。
 古池の視線に気がついた老委員は、航宙艦から目を離さぬままに応える。
「なに、大した事じゃないよ。着けば分かるから。」
 委員会の他の面々に訪ねられても、ダンツは同じ様な答えを繰り返すだけ。
 建造中の航宙艦が視界のほとんどを埋め尽くす頃、アナウンスが機長の声を伝えた。
「こちらは機長のブライザッハです。あと三十分ほどで7号作業艦に到着します。与圧発着デッキに着艦(ドッキング)します。全員磁気靴を履くのを忘れないように。」
 シャトルは起動修正のための短い噴射を何回か行い、大型作業艦に接近するコースを取り始める。
「作業艦7号?」
 古池は頭をひねる。あれだけ大型の作業艦に名前が付いていないのは珍しい。
 ゆっくりと黒い巨体に近づくシャトル。全体が影になった作業艦の、その所々にある作業用とおぼしきスポットライトや、窓からの明かりが見える。
 影になっていて分からなかったが、船体の色は明るいグレー、船体の上にいる空間作業士との大きさの比で考えれば、7号作業艦は全長4〜500メートルはあるだろう。
 やがて、7号作業艦の船側が内側に大きく開く。与圧ベイと呼ばれる、シャトルそのものを収納することも可能な巨大なエアロックだ。
 ベイ内を照らす探照灯の光を直視して、思わず目をそらす。
 満月の陰に隠れた航宙艦や作業艦を見続けたため、いつのまにか目が暗順応していたのだ。
 後ろで圧力隔壁がゆっくりと閉じる。真空のため、あれ程巨大な隔壁が閉じても、何の音も振動も伝わってこない。
「なんだか」
 気のヌケたロブの声。
「閉じ込められちまったのか?」
 振り向くと、古池の後ろに、いつのまにかロブがいた。
 みるからに起きぬけと言った様子で、目が半分死んでいる。
 古池は窓の外に目を戻して応える。
「シャッキっと目を覚ませ、ローレクト教授。天国かどこかでヒバリが鳴いているぞ。」
 シャトル内に心地よいクラシック音楽が流れはじめる。
 着艦を前にした何かのサービスかと思った古池だが、その音楽の後ろのかすかなノイズを耳にして、一気に肝を冷やす。
 横にいたロブも、古池の顔を見て、数瞬遅れて真っ青になる。眠気もすっかり吹っ飛んだのは間違いあるまい。
 船体が軋んでいる。
 気にしなければ、まったく聞こえないほどの音だ。が、航宙艦の船体の軋みは、即乗客乗員の死につながる。
 だが周囲の委員たちは、ダンツも含めて気がついた様子も無い。
 ここは、皆に知らせるべきなのではないだろうか?
 古池とロブは顔を見合わせた。
 と、そこにアナウンスが流れる。
「艦長のブライザッハです。現在、本シャトルは与圧ベイ内で等圧作業を行っております。周囲が加圧されるに連れて、船体に各種の音や振動が伝わってくるようになってきますが、問題はありません。」
 古池とロブは再び顔を見合わせ、ため息をつく。
 あたりを見回し、他の乗客たちが自分達の動揺に気がついていないことを確認してから、照れ隠しに笑った。
 そのうちかすかな音も消え、シャトル前方の圧力隔壁が開き始める。
 空気を伝わり、船体が微かに震えた。
「人間、どこかで思い込みに囚われているもんだな。」
 ロブがしみじみと言う。
「なんでだ?」
「頭の中のどこかで、無重量空間を行く船に、周囲の音が伝わる筈もないと思い込んでたよ。」
 古池はロブの言葉を気にする様子もなく、開き始めた圧力隔壁の中を、窓に顔を押しつけて見ている。
「子供みたいだな、おい。」とロブ。
「知的好奇心に満ち溢れていると言って欲しいね。」
 ロブの突っ込みに切り返しをいれていると、船体が微かに揺れ、船内照明が瞬いた。
 見ると、宇宙服を着込んだ空間作業士がぺたぺたとした奇妙な足取りでデッキ側に戻っている。磁気靴を履いているとき特有の奇妙な歩き方だ。
 その空間作業士が、いつのまにかシャトルに電纜(アンビリカル)ケーブルを接続したらしい。
 ほどなくぼそぼそとした人の声のような雑音が船内放送に流れる。
 ちょっとした間の後、船内アナウンスが始まったが、その声を聞いて、シャトル内が一瞬ざわめいた。
「あー、諸君、アヴァロン開拓委員会の誇る積み木のお城へようこそ。」
 その声は、聞き間違えるはずもない。アヴァロン開拓委員会第四代議長、エイドリアン・C・クラーク。
「ここは諸君に楽しんでもらえるよう、様々な嗜好を凝らしている。色々あると思うが、委員会からのプレゼントだと思って楽しんでいってくれ。」
 古池とロブは、その言葉におどろいた。
「………楽しんでいってくれって、委員会は大枚はたいて遊園地でも作ったってのか?」
 それだけいうと、シャトルの外をしきりに見回して黙っている。
 いつもは口の滑らかなロブも、今回はかなり驚いたらしい。他に言うことを思い付かないのもあるだろうが、クラーク議長の言った『嗜好を凝らした』何かが気になるらしい。
 古池は古池でダンツ委員の方を見たが、老委員は到着直後に使うらしい書類の整理に追われて、とても話しかけられるような様子ではない。
 仕方無しに外を見る。
 シャトルはドッキングモジュールに接続され、ゆっくりと与圧ベイを抜ける。
 発着デッキ内の空間作業士は身動ぎもせずにこちらを見ている。
 宇宙空間から発着デッキに入ってくるシャトルには、特有の緊張感があるという。絶対真空と生の宇宙線に晒されてきた船体には、自分の知らない何かを感じることが出来るのだろう。
 古池はそう思って、もう少し発着デッキ内を見回した。
 シャトルの窓から見える範囲はあまり広くないが、それでも発着デッキの大きさは分かった。
 幅50メートル、奥行き30メートル、高さ15メートル。正確に分かったのは、壁や床に、ご丁寧に目盛りが振ってあったおかげである。
 が、これがどんな意味を持つのか古池にはさっぱり分からなかったが、空間作業士か係留要員の何かの役に立つのだろう。
 シャトルが発着デッキ内に完全に収まり、圧力隔壁が完全に閉鎖されると、空間作業士に代わって、係留要員がぞろぞろと現れた。
 係留要員は、真空空間での作業資格は持っていないが、こういった発着デッキ内などの与圧区画内での様々な仕事を受け持っている。
 ドッキングモジュールが所定の位置に固定されると、船内アナウンスが流れ、その中でブライザッハがシャトルを降りる際の様々な注意点を挙げはじめた。
 もちろん、これは規定に従ったものだが、映画のクレジットよろしく、そんなものに耳を傾ける変わり者がいるわけもない。
 われ先に降りようとする乗客たちで、シャトルのエアロック前がまたたくまに渋滞した。降りるのには時間がかかりそうだ、そう覚悟を決めた古池は、荷物を目の前に浮かせ、自分も窓のそばで天地逆さに浮いてみる。
 窓から外を見ていれば、時間などすぐに経ってしまうに違いない。
 天上を見てはじめて気がついたが、壁や床には人間の錯覚を利用したうまい方法が使われていた。
 発着デッキ内はもちろん無重量空間で、普通は天上や床と言った言葉に意味はない。
 しかし発着デッキ内には、シャトルが固定されるドッキングモジュールを動かすためのレールがあり、これがある方が慣習的に『床』と言われている。
 乗客の来訪など考えられていない整備デッキやドック、研究や観測を主な役割とするステーションなどの発着デッキなどでは上下などなく、四方全ての壁にドッキングモジュールがあるのだが、この作業艦では、地上からくる要員が多いためか一応天地の区別を付けたようだ。
 ここでは『床』側の壁は暖色系の色で塗装され、地面を連想させている。一方その反対の『天井』となる床には、寒色、つまり青系の色で塗装されており、これは空を連想させる。
 塗装する色にほんの少しの工夫を加えることで、この大して広くないはずの発着デッキに充分な広さを感じさせ、かつ無重量空間の中に上下感覚を演出していた。
 発着デッキ内には、古池が乗ってきたシャトルの横には、もう一機、シャトルが到着している。委員会のシャトルより二回りは小さく、シャトルというよりは、短距離用の艀(ハシケ)か端艇の類のようだ。
 ふと気がつくと、発着デッキの方で、何か騒ぎが起きている。
 見ると今さっきシャトルから降りた委員や研究員たちが、乗員用エアロックで引っ掛かっていた。
 減圧時ならともかく、非常用でしか使われないはずのエアロックで詰まるなんて事はまず考えられないが………
 古池はエアロックのない等圧用ドアからシャトルの外に出る。
 背中に何か赤外線ストーブに顔を近づけたような輻射熱の様なものを感じる。
 これが空間作業士たちのいう、『緊張感』なのだろうか。
 振り返ってシャトルを見る。
 息を飲んだ。
 空間作業士たちが、シャトルに釘付けになったのも、うなずける。
 異様な圧倒感。あるいはそれを存在感と言ってもいいかもしれない。そういった古池の語彙を越えたものがそこにはあった。
 しばらく呆然として船体を見つめる古池。
 その船体に係留要員たちが取り付き、電纜(アンビリカル)ケーブルの他、メインバスケーブルや動力系、推力系や換気系など、様々なケーブルやダクトを接続し、整備作業を始めている。
「古池(フル)!」
 ロブの声。
 振り返ると、乗員用エアロックの方の行列の中で、ロブが手を振って古池を呼んでいる。
 無重力なのだから、そのまま床を蹴って人の壁を飛び越えていきたいような衝動に駆られたが、近くに作業用のてすりなどはない。とすれば、ジャンプすればそのままロブに衝突する事になる、仕方なく慣れない磁気靴でぺたぺたと歩いていく。
 既に列の中ほどにいたロブだったが、古池が来るとそこを譲り、列の一番後に並びなおす。
「さっそく何かのしかけがあるらしいぞ」
 そう言ってエアロックの方を指さすロブ。
 エアロックには5〜6人ずつが入り、ドアが閉じられる。等圧の発着デッキなのに、なぜエアロックに入る必要があるのか古池には分からなかった。
「ダンツ委員(爺さん)は?」
 老委員の姿を探して、古池が周囲を見ると、ロブは頭をふった。
「先に入ったらしい。変なところで素早い爺さんだよ。」
 シャトルに乗り込んでいた委員や研究員たちは三十人にも満たない。
 さほど時間がかかることもなく、古池らは、既に作業艦に乗り込んでいた委員ら誘導でエアロックの中に入ることができた。
 が、エアロックの中は何とも変な状態だった。
 いや、何が変ということもないのだが、エアロックの中にリクライニングチェアが並べられているのだ。
 委員は、古池らに、リクライニングチェアに座るよう指示すると、エアロックの隔壁を閉じる。
 ご丁寧に、指示はリクライニングチェアに全員座るまで、アナウンスでも繰り返された。
 ロブは古池の方を見てぼやく。
「何だか、立体映像ショウでも始まる……」
 そう言いかけた時だった。
 何か圧迫感が全身を襲った。さほどでもないのだが、シャトルが最大加速を始めたときのような、かなりの圧迫感があった。
 いつ終わるのかと身構えていると、突然エアロックの内部側の隔壁が開く。隔壁の向うには長身の男が立っていた。
「積み木のお城へようこそ!」
 男はそう言うと、エアロックの中に紙飛行機を投げ入れる。正方形の紙を簡単に折っただけの紙飛行機は、まっすぐに宙を飛んだ。
 それをみてまずロブが、そして古池が、やがてエアロックの中の全員が度肝を抜かれた。
 無重力空間では、翼に揚力が発生する紙飛行機は、まともに飛ぶことは出来ず空中で縦ロールを繰り返す。
 しかし、紙飛行機は飛んだ。
 古池はおそるおそる、胸のポケットから鉛筆を取り出し、手を放す。
 鉛筆は、ごく自然に床へと落ちた。
 もういちど、長身の男を見た。
 彼の名は、エイドリアン・C・クラーク。前世紀最後のとも、今世紀最初のとも言われる天才物理学者。
「さて、私の手品は気に入って頂けたかな?」
 誰も、リクライニングチェアから立ち上がろうとしなかった。
 古池には、それが、突如体を縛り付けた重力のせいだけだとは、とてもいえそうになかった。


 んなわけで、いつのまにやら第24回を数えてしまったわけですが、お話の方もようやっと進みはじめてまいりました。
 話は展開し始めても、ペン(キーボード?)の進みはイマイチというか何と言うか………DirectXのアホー(涙)。


 実は、11月4日に参加した『ハートフル・コミュニケーション』で、意外な(というか肝を抜かれるような)いくつかのサークルの方が、メガディクを読んでくださっていたり、これ(亜生命戦争異聞)の続編を期待されてたり、という事実を知ってしまって、仰天していたり恐縮したり。
 読んでくださっている方から直接感想を頂くことは、実はあんましないのですが、こういうのがあると、小規模な即売会もいいかなぁ、とか思ってしまいます(件の即売会は、運営側も参加者側もエラく大変だったようです、筆者は委託してもらっている関係上、一般参加列での入場でしたが、三時間ほど寒空の中待たされました(笑))。
 そんなこんなで、色々ありますが、コミケでは、なんとか新刊を………

 では、次回の更新をお楽しみに。

Number of hit:38450+14500くらい


10/18
お題目:新型機導入

ジャージリナ  某誌の連載。第二回目までの掲載原稿を提出しても、未だに第一回目の掲載誌が出ないという不可思議な感覚だなぁ。連載ものって、みんなそうなんだろうか?、とか思いつつ………


 うおおおお………昨夜の雨で、夜干ししていた布団がびしょびしょ………予備を使う也よー(業泣)、うがー!、天気予報官のばかー!、なめんなよ神々ー!


 仕事上の関係で、遂にAT機を導入しました。とはいえ、今までも使っていたマシンがあったのですが、Direct-Xに手を染めざるを得なくなってくると、さすがにPentium2/300Mhzでは荷が重すぎ、仕方なく新しく購入することになりました。3年前はこんな事言ってたのにね……
 本来ならショップメイドかメーカーメイドにしたいところだったのですが、予算上の制約があまりにキツく、結局自作となりました………パーツを買った店の人に『グラフィックカード・電源・ケース・HDD・サウンドボードはあります。予算は2.5万円です』と言ったら、ちゃんと予算内で組んでくれました(本当に、よく組めたもんだ(汗))。
 地を這うごときの低予算機、sugichi殿の豪華絢爛仕様ゴーヂャスマシンに比べれば、性能は言わずもがなですが(極安マザーボード&即死級CPUで覚悟完了)、それでも仕事はできるー!、正しくは、これで何とかするー!(泣)。
 しかしまあ、おどろいたのは、その結果、半分以上は頂き物で構成された AT機がもう一台湧いて出てきた事。まったくもって、スゲー世の中です。


 んでもって、『ハートフル・コミュニケーション』の方ですが、開催前から、なんだか騒ぎになってます。大丈夫なのだろうか………
 ………いや、心配なのは、むしろ自分自身、新刊に関われるかどうかの方が………。

 では、次回の更新をお楽しみに。

Number of hit:37106+14500くらい


10/07
お題目:レヴォ終了〜

 お、お疲れさまでした………。今回は、新刊に関われなかったのに、ヤケに疲れました(笑)。
 昼頃までは無茶苦茶混んでいた開場が、午後にはすっきりさっぱり空いてしまったのも結構驚き。うーむ、即売会の人の流れも随分様変わりしているようです。
 んでもって、来月もあったりします。今回と同じサンシャインシティ、11月4日『ハートフル・コミュニケーション』でし。例によって、例のごとく、『兄君さま詰所』『あさひが丘66』に委託させていただきまするー。ちなみに、いつものゲーム本でなくてPCギャルゲー系の予定、予定。
 やっぱしWindになるんですか?>関係各位。

 とかなんとか言いつつ、新刊作る余裕なんかあるのかは不明………。

 では、次回の更新をお楽しみに。

Number of hit:36621+14500くらい


10/01
お題目:亜生命戦争異聞#23

 今週末はー、レヴォなんですよー。
 例によっての『兄君さま詰所』で待っているのですよー。うにゅー(規定種目)。


 では、亜生命戦争異聞の23回です。いよいよ宇宙空間へと出てきた例の一味(笑)ですが、はてさて、これからどうなることやら………


「いい気なモンだな。」
 フンと鼻を鳴らして、ロブは古池に資料ボックスを半分押しつける。
 ふわりと浮いた荷物を慌てて受け取る。重力は約半分だが、慣性が減るわけではない。
 受け取った荷物に押されて、よろける古池。
 二人で、回転方向を打ち消す方向に歩く。歩く程度の速度では体重は数百グラムも違わない。しかし、それでも心持ち軽くなったような気分は味わえる。
「呼び出されたグランドカンファレンスは三つ、研究発表を求められた小委員会は二つ、委員会のお偉いさん方への説明で合計六つだ。」
「持ち時間は何分?」
 ロブは眉間に皺を寄せながら器用に笑って見せる。
「クラーク議長の目の前で九十分、あとは始期テラフォーミング作業分科会で六十分。あとはざっと流しただけ。全部やってたら、ステーションから帰るのが来週になったところだ。」
「ま、そんなところか。」
「随分簡単に言ってくれるね?」
「お前と一緒になって、眉根を揉んで悩めって?」
 重い紙のかたまりを軽く投げ上げて一瞬宙に浮かせたロブは、それを姿勢を直して受け止め直す。
「それはお前の専売特許だろ?、古池(フル)」
「バイロンか誰かが言ってるだろ?、青年は悩み多き存在なのさ。」
 ロブは思いっ切り吹き出して笑い始めた。
「青年ときたか、こりゃ一本取られたね。」
 やがて宿舎となっているホテルが近づいてくる頃、ロブは足を止め、ぽつりと呟いた。
「やっぱり転属はしないのか?」
 古池も足を止めて、ロブを見た。
「ああ、量子電池の件は、ナノマシン開発の過程で出てきた副産物みたいなものだ。理論はずっと前からあったし、俺が最初に作ったわけでもない。」
 ここまで言って、息をついた古池は、コロニーの『壁』側の林を見る。
「正直なところ、華やかな舞台は俺には似合わないし、好きじゃない。何より、俺はああいった世界に二度と足を踏み入れたくないよ。メカトロで気楽にやりたい。」
「だけど古池よ。」
「分かってるさ。でも、俺はあんな思いだけは、二度としたくないんだ。」
 古池は空を仰ぐ。青い空の代わりに目に入るのは、天に張り付いた家や林、道路。そして人々。
 かつての記憶が苦痛になって古池の胸を刺す。奥歯をかみしめる。
「京子(キョーコ)さんの事か。」
 しばらくあって、古池は応えた。
「ああ。」
 ロブは何か言おうとしたが、結局黙って古池の方を見た。
 古池は寂しそうに天に向かう道路を見ている。
 学会(アカデミー)に所属していた頃、そして二人でこのステーションに滞在していた頃、新しい生活を切り拓こうとしていた頃……
 そんな、古池にとっての夢の残り香が、ここにはあった。
 ロブは古池の方を見ないで言う。
「もし、お前の気が変わるようなことがあったら、言ってくれ。」
「わかった。ありがとう」古池もまた、ロブの方を見ることは無いままに応えた。
 それから二人は言葉をかわすこともなく、ホテルのフロントまで歩き続ける。
 フロントには、ロブの助手が待っていた。
 古池は、その助手、いつも研究室で顔を合わせるのだが、まだ名前の知らない青年にその荷物を渡すと、自室に戻ろうと階段へ向かう。
「おい!、古池!」
 呼び止められ、振り向いた古池に、ロブは紙に包まれた何かを投げる。
「クラーク議長からお前にだとさ。」
「クラーク議長から?」
 驚く古池に、ロブは口をへの字にして渋面をつくってみせた。
「酒、だとさ。」
 古池は顔全体で苦笑する。
「酒、か。」
「酒」
 二人は顔を見合わせて吹き出した。

 古池らが委員会のシャトルで第一旅客ステーションを飛び立ったのは、それから二日経ってからだった。
 この三日間、ひたすらに小委員会やカンファレンスに引き回されたロブは、文字通り精も根も尽き果てたらしい。
 加速後に訪れる無重量の高揚も無くただシートの中で眠りこけ、両手を柳の下に住まう幽霊のように浮かばせてたゆたっている。
 一方、古池はといえば、窓の外に見える巨大な月に心奪われている。
 軌道ステーションからさらに外軌道に出たのは初めての古池は、さらに生まれて初めて月の裏側を見るということもあり、まるで初めて遊園地に訪れた子供のような高揚を感じていた。
「おお!」
 シャトルの窓に顔を押しつけて月を見ていた古池は、その視界の端に、月を取り巻くきらめく光の粒を見つける。
 それは自動運搬シャトルによって小惑星帯から運び込まれた資材隕石群。
 暁境界線上の光と影の月面を、赤道線に沿って南北に分かつ光の一線に、古池は心奪われ、その光景を見つめ続けた。
 数時間の後、シャトルは機体首尾線を反転させ、0.1Gという惑星間空間航行としてはかなりの加速度で減速を始める。
 全てのものがシャトルの艦尾方向に、つまりエンジンブロックのある後方へと落ち始めるが、古池はそれでも窓から離れず、その光景を見つめ続ける。
 やがて、今は満月の位置にある月の裏側、真っ暗な月の影にあるはずのラグランジュ3に中に、何かきらめくものがある様に見えた。
 しばらくすると、それは宇宙空間の鋭さを秘めたギラリとした反射光にかわる。点にしか見えなかったそれは、鋭角を持った何かの形を持ち始める。
 ………細い光の糸につながれた、二つの箱。時に反射光を放って目を刺し、次の瞬間には深遠の闇に溶け込む影となり………
 細い細い柱につながれた、幾つもの箱。その箱の表面に並ぶ光の点。
 何か見覚えのある箱の形状。艦首と艦尾。
 艦尾のエンジンブロックは半分以上が推進剤(プロペラント)タンクなのだろうか。エンジン本体らしい角ばった箱の前に、角をそぎ落としたような円柱が、細い糸、いまは太さを増して真っ黒な割ばしに見えるそれが幾つもくっついている。
「ありゃ………」
 溜息とも呟きともつかない古池の言葉。
 確かに『それ』を見たことがあった。
 古池はそう断言できた。
 2年前、『象牙の塔』のあの部屋で。ダンツ委員の、あの部屋で。
 機体中央部の支柱らしき部分以外になにもないところを除けば、あの姿はまさにダンツ委員の部屋で見たVRそのものだ。
 はじめてあのVRを見たとき、あれは航宙艦のモデルを継ぎ接ぎしたものだと思っていた。
 だが、実物を見てはじめて分かった。航宙艦はまさにあのVRモデルそのままだった。
「予算の関係でね。」
 後ろを振り向くと、いつのまにかダンツ委員がシートに身体を預けて古池の方を見てた。
 隣に座っていた委員会の誰かと席を代えてもらったらしい。
「まあ、有り物をツギハギしてつくれば、安くし上がるだろうって。」
 ストロー付きのボトルから、ちょっと何かを飲んで、ダンツは続ける。
「どの国も、費用のかかる航宙艦を維持するのは、仲々に難しかったっていうのが素直なところだろうね。誇りじゃ予算は組めなかったって寸法だよ。」
 古池はダンツの声に耳を傾けながらも、もう一度航宙艦の方を見る。
 シャトルが接近するにつれ、航宙艦は加速度的にその大きさを増してきている。
 VRモデルでは見えなかった細部が、次第にはっきりしてくる。
 一番大きなブロックは、ロシアの『エカチェリーナ二世』、古池が見ている方向で言えば下の方に見え隠れするのは中国の『万里』だ。
 アメリカ、EU、日本、オーストラリア………世界の主要国が旅客用として就航させていた航宙船を、アヴァロン開拓用の航宙艦の為に提供している。
 結局のところそれは、各国が抱える金喰い虫である大型旅客航宙船を体裁の良い方法で処分し、同時にアヴァロン委員会への発言力を強化したいという一石二鳥を狙った露骨な行動に過ぎない。
 しかし、委員会はそれを逆手にとって短期間かつ安価に航宙艦を完成させることができたわけである。
 目の前で次第に視界を埋め尽くしつつある航宙艦は、その巨大さを次第に明らかにしつつある。全長は第一旅客ステーションと同じか、それより長いに違いない。
 かつてダンツの部屋で見たVRから想像した大きさに比べれば、遥かに小規模なものだ。しかし、『実物』の持つ存在感は、VRとは比較にならない。
 うっかりすれば、息をすることすら忘れそうな圧倒的な光景を前に、古池は大きく深呼吸した。
「圧巻ですね。」
 ダンツは、ポケットから小さな銀色のかたまりを取り出すと、古池に渡す。
 よく見ると、銀紙に包まれた、瓶型のチョコレート。ウィスキーボンボンだった。
「祝杯を揚げよう。」
 そう言ってダンツはウィスキーボンボンを一つ口に入れた。
 さすがのダンツも、シャトル内でウィスキーを飲むわけには行かなかったらしい。
 もらったボンボンの銀紙をとり、銀紙の方は『ライフジャケット』と呼ばれているオレンジ色のチョッキの、たくさん付いているポケットの一つに入れた。
 この様なシャトル内では、ゴミの飛び散るのを防ぐために、搭乗者全員にこのジャケットを着ることを義務づけている。
 もちろん他にも理由はあるが、もう一つの機能が働くとき、着ていた人間は既に死んでいるだろう。  古池はボンボンを口に入れ、噛み潰す。
 驚くほど熱い液体が喉を焼き、むせそうになった。こういった低重力でむせるのは、時として命に関わる。
 ダンツは咳き込む古池を見て驚いたようにハンカチを取り出す。
 古池が受け取ったそれは、いつも自分が使っているような使い捨ての不織布ではなく、銘の入った絹製のものだった。
 こんなのを使っていいのだろうかとか思いつつ、口に当てる。
 咳は程なく収まった。
 改めて、古池はもらったボンボンを見る。
 ダンツの持ってきたそれは、ウィスキーボンボンというより、ウィスキーそのものをチョコでコーティングしてある程度に近かった。
 低重力の軌道ステーションでもアルコールの販売は厳しく制限されているが、航行時間のほとんどを無重力で過ごさなければならないシャトル内では、飲酒は厳禁事項の一つだ。
 ダンツのウィスキーボンボンは、その規約の裏を見事に掻いてみせたわけである。
「本部調理部の特製だよ。」
 古池の方を見たダンツは、いたずらっぽい笑みを浮かべて、ボンボンもう一つ口に入れた。


 さて、随分長い間かかりましたが、ようやく話が動き始めますよ。今までいろいろと引いてきたつもりの伏線やらナニやらが、うまいことまとまってくれると良いのですが………。
 ではでは、続きは次の講釈で………

 では、次回の更新をお楽しみに。

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09/19
お題目:新刊案内(笑)

 んなわけで、今週末はサンシャインクリエイションであったりします。例によっての『兄君さま詰所』『あさひが丘66』(いつもお世話になっております…)での委託参加なのですが、今回は新刊ありです。
 先々週に参加した『セガのゲエムは世界一ィ』でも出した『メガドラスイッチ〜メガディクショナリ・ミニ』です。やるかどうか随分迷っていたのですが、いざ書き始めてみたら、わずか三日で百項目に………(笑)。コピー誌とはいえ、実に2年半ぶりのメガディク新刊。名前に反して、メガドライブソフトの新規レビューはありませんが、例のあのノリは健在のつもりですので、どうかお楽しみに!

 "BE JUST BEGINNING" STAR CRUISER THE NOVELIZATION #1をはじめとして、夏コミの新刊も、もちろん用意していきますので、時間に余裕のある方は、是非お立ち寄りくださいませませー。

 では、次回の更新をお楽しみに。

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09/11
お題目:亜生命戦争異聞#22

 まずは『せげいち』参加のみなさまに感謝。
 『せげいち』では、色々あったのですが、それはそれ。もう大変といった感じでした。

 亜生命戦争異聞の第22回です。


 小野と石井の二人と別れて外に出た。
 小さな喫茶店から出ると、宿舎となっているホテルを『見上げる』。外周を三分の一周ほどする必要があるが、この低重力下では大した道のりではない。
 地下層を通る『トロッコ』と呼ばれる屋根のない無人電動車に載っても良かったのだが、ステーションの低重力でちょっとしたスーパーマン気分を味わうのも悪くないだろう。
 そう思って、歩くことにした。
 ほんの少し膝を深く曲げて、小走りに走ってみる。
 だが予想ほどに体は軽くならず、かえってただ立っている方が楽に思える程だ。
 古池は振り返ると、今度は逆方向に走ってみる。
 体が軽くなる、ちょっと蹴り出したつもりが、バランスを崩して前のめりに転びそうになる。
 両手を前に突き出し、近づいてきた地面を受け止め、しゃがむように体勢を立て直す。
 ステーションの回転方向に走り出すと、遠心力の疑似重力が倍加され、反転すると疑似重力が軽減される。
 たったそれだけのことなのだが、古池には、その感覚が新鮮だった。
 この程度の回転数なら、全力で走れば相殺することも不可能ではないだろう。
 だからどうした、と言われると、返す言葉も無い。『子供地味た行動だ』と言われる以外の何者でもない。古池自身思わず笑って周囲を見回した。
 思ったほど注目を集めてはいない。多分、こういった事をする人間は少なくないのだろう。
 自分自身の内部に見つけた思わぬ子供心に、内象にも似た憤りを感じつつ、宿舎に向かって歩く。
 ふと前を見ると、前から子供が走っている。
 このままだと、古池とぶつかる。
 そう身構えるた古池だったが、少年は大きくジャンプし、古池の頭上を越え、その存在など気も掛ける様子も無く走り続ける。
 古池は汗を拭き、ため息をついた。
 かつて、コロニー育ちの子供は筋力を失い二度と地球に戻れぬものと思われていた。
 しかし、現実はそれと異なる答えを用意していた。
 地球の重力に縛られた子供たちを越えた筋力と精神力を持つ、『新しい子供』。
 それが、誰に責められよう。
 人類は今まで誰も知らなかった新しい時代を切り拓きつつある。
 地球という環境を知らない人類は、未だ十数人にすぎない。
 軌道ステーション上で生まれた十数人の子供たち。
 たったそれだけの………
 少年は振り返る。
「おじいさん、ごめんね!」
 言われてからしばらくして思い至る。
 まだ、おじいさんと呼ばれるほどの歳じゃない。
 怒鳴るつもりで振り返ると、少年はもう遠くに走り去っていた。
 軌道ステーションの大通りを跳ぶように走り去る少年。
 古池は驚く。
 少年の走り去る先に何かを見たのだ。
 何か、表現できない何かを。
 そこに割り込んでくる日常。
「古池(フル)!」
 いつもの、声。
 安心できる、友。
 古池は声の方を見る。
 ロバートが疲れはてた様子で、大きな資料ボックスを抱えてやってきた。
「どうした、何か問題でも?」
 ロブはそのまま低重力下の道路に倒れ込む様な素振りを見せた。
 もちろん、それは見せかけで、両膝を付いたあと、さも疲れ果てたように立ち上がったのだが。
「見てのとおりだ。畜生、委員会の連中は俺を1センチ単位でこま切れにするつもりらしい。」
「モテる男はツラいね。」
 おどこえた古池の答えに、ロブは歯をむいた。
「お前の量子電池のおかげさ。」
「何でだ?」
 ロブは、両手に持った紙の重さだけでない何かの重さを感じさせてため息をつく。
「お前な、自分が創造(つく)ったモンの重大さに気がついていないのか?」
 間髪を入れず応える。
「知るか。」

 では、次回の更新をお楽しみに。

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09/03
お題目:亜生命戦争異聞#21

 まずは、35000ヒット達成し申しましたー。閲覧者の皆様に、海より深く礼〜。

 んでは、亜生命戦争異聞の第21回です。


 目の前を歩いていくブルーのジャケットを着た女性。
 古池が彼に目を付けたのは、特に意味があるわけでもない、ただ、彼女の動きに気を取られたからだ。
 いや、正直に言えば、彼女がここに来て初めて見た女性だったから、かもしれない。
 長い髪をヘアバンドできっちりとまとめ、その動きだけ見れば、ゆっくりとゆるやかに歩いているようにも見えるが、進む速さは走っているのと同じ。
 走る、というよりは、発泡コンクリートの舗装面をつま先で蹴り飛んでいる、と言った方が正しそうだ。
 まだ完全に慣れたとは言い難い。
 遠くに目をやると、わずかな吐き気にも似た居心地の悪さがこみ上げてくる。
 目の前のコーヒーカップに視点を戻し、ゆっくりと持ち上げる。
 コーヒーカップの上にのせられたフタを、ちょっとずらして中のカフェオレをすする。
 デザインこそカップに会わせてつくられているが、古池としては、なんとなく湯呑みで日本茶を呑んでいる気分になってくる。
 まあ、それも仕方がない。
 ここはそういうところなのだから。
「古池。」
 懐かしい声。
 振り返ると頭に白髪が目立ち始めた男と、それよりは背が高く、若い男。
 やはりブルーのジャケットを着て、手には丼の載った四角い盆(トレイ)を持っている。
「小野!、ひさしぶりだな!」
 古池は立ち上がったが、いきおい余ってすこし宙に浮く。
 椅子が倒れた。
 瞬く間に周囲の目が二人に向けられる。
「おいおい、まだ慣れてないのか?」
 小野と呼ばれた半分白髪の男が手を伸ばして古池を助ける。
 照れ隠しの笑みを浮かべて、古池は椅子を元に戻した。
「昨日の今日だぞ。そう簡単に慣れてたまるか。」
 小野ともう一人の男は古池のいるテーブルの反対側の椅子に座った。
「何年ぶりだ?」
「委員会に行って以来だからな。十年、になるか?」
 椅子に座り直した古池は、カフェオレを少しすすって気を落ち着けてから答えた。
「よく首にならなかったもんだな。」
 そういって笑った小野と、場違いの席に引き連れられてきたような顔をしている男は、丼の中身をかき込む。
 親子丼だった。
「俺は、ここの出来が違うんだよ」、古池は自分の頭を指さす。
 小野は、歯の間からキシシと下品な笑い声を出した後、突然神妙な表情をする。
「変わってないな。お前も」そういって、古池を見た。
「まあ、な。」
 古池は窓から見える風景に目をやる。
 視界の外側に行くほど、めくれる様に『上』に伸びて行く地平線。
 この円筒の内側を一周する公園の緑。地上の生活に慣れた古池には、異様な光景だ。
 直径2キロ、長さ1キロの巨大な構造物。古池は今、その巨大な構造物の内部にいる。
 この巨大な円筒は、数十秒に一回転することによって内部に約0.6Gの疑似重力を生み出している。
 生まれて以来、ほんの一時期を除いて、地球の質量による重力に慣れ親しんできた古池は、この遠心力による疑似重力に、完全に慣れたとは言えない。
 計算上は誤差の範囲に入るはずの足と頭にかかる遠心力の差で、吐きそうになってみたり、ささいな動作から生まれる慣性力で様々な飲み物をこぼしてみたり……
 しかし、目の前の二人はそう言ったことにはすっかり慣れているようで、古池のようにカップにフタをする事も無く、ごく自然にお茶を飲んでいる。
「今回は、急ぎみたいだが、いよいよなのか?。」
 古池は小野の方に向き直った。
 小野はテーブルの上に肘をおき、両手を組んで口を隠すようにして古池の方を見ている。
「う、む。」言葉を濁す古池。
 軌道ステーションの人間は、基本的に委員会のほとんどの情報を知っている。
 この小野の問いかけは、古池がどれだけのことを知らされているのかを試すものと思えた。
「いや、まだ分からん。今回の出張辞令も、月軌道の委員会施設への見学だしな。」
 この答えを聞いて、ため息をついた小野は、隣に居心地悪そうに座っていた若い男に目くばせをした。
 分かっていたつもりではあるが、どうやら十年ぶりの再会を祝うためだけに呼び出された訳ではなさそうだ。
「はい。」
 男は脇に抱えていた書類を机の上に置く。
「こいつは、石井っていって、俺の部下だ。今はステーションの管理部付き。よくできる奴だよ、まだ鍛えてる途中だけどね。」
 石井が広げた書類は、幾つかの図表と報告書。すべて日本語で書かれていた。
「これは?」
 古池は興味を押さえられなくなって、切り出した。
「うちの部で出した軌道要素表。」
 小野はテーブルの上に身を乗り出し、出した書類の上におおいかぶさるようにして古池に顔を近づけた。
 小声だが、目は本気だ。
「去年の夏から、軌道要素の予測値からのズレが大きくなっている。今年はもう三回も軌道修正をしている。変化量(デルタ)もここ十二年の平均値の倍だ。しかも連続的にゆっくりと起こっているモンじゃない。変化量(デルタ)を監視して分かったが、短時間でドカンとズレる。太陽・月・地球・他の重力源、いろいろ計算してみたが、合算しない。念の為、静止衛星の軌道要素も集めて計算してみた。やっぱり同じだった、『何か』に軌道要素を乱されている。第二ステーションも同じだ。変化量は質量比で正確に一致している。」
 そこまで言い切って小野は息をつく。
「古池、委員会は一体何をやっている。何を隠している。」
 古池は眉根を揉んで答える。
「待て、待て、小野。俺はそんな事が起きてるなんて、聞いていなかったぞ。」
「あたりまえだ。ステーションの軌道要素がズレているなんて発表できるか。大騒ぎになる。」
「調停会議や軌道利用委員会への報告は?、データ捏造でもやったのか?」
「俺が『核の日』みたいな事故を起こすつもりだって言うのか?、馬鹿言え。変化量は倍だが、報告用データの誤差の範囲内だ。測定精度は、公表しているデータの百倍だからな。報告書に嘘はない、問題もない。」
 頭をひねる古池。
 確かにダンツは、古池らに何かを隠していた。しかし、それがこんな大げさな事に繋がっているとも考えにくい。
 古池は正直に答えることにした。
「俺も何も聞いちゃいない。今回だって、月軌道の委員会施設に行ってデータを受け取ってこいと言われただけだ。委員会は何か隠しているのかもしれんが、俺は教えられていない。」
 今度は小野がため息をついた。石井は、相変わらず居心地悪そうにもぞもぞと動いている。
「……まあ、そんなところだろう。」
 小野はそう言うと、書類の束をひっくり返して一枚のデータシートを取り出した。
「見ろ。」
 その再生プラスチックのデータシートには、黒い線で月と地球が、そして細くて青い線で無数の円が描かれている。
 このスケールで見ると地球も月もほとんど点に近いし、青い線の円は、どちらかと言えば等高線の様にも見える。
 そして、その『等高線』の低い頂が、月の裏側にあった。
「色々シミュレートした結果だ。月の裏側に何かある。」
「どれくらいだ、質量は?」
 小野の顔色が変わる。
 椅子の背もたれに身を投げて、腕組みした。
「……なあ、古池。直径数百キロもある小惑星が、出たり消えたりすると思うか?」
「なんだそりゃ?」
「軌道要素計算だ。さっきも言っただろ、『短時間でドカンとズレる』って。重力源は確かに存在している。隕石どころの大きさじゃない。ちょっとした小惑星クラスだ。だが継続して存在しない。出たり消えたりしているって事だ。」
 古池は少し考えてから言う。
「移動しているとか、そういった可能性はないのか?」
 もう一枚のデータシートを古池に突き出した小池は、頭を掻きながらブツブツと言う。
「見ろ、重力源の発生も消失も、観測限界以下、5秒未満だ。小惑星クラスの重さのものが移動する時間と考えれば、文字通り一瞬だな。光速以上で移動して、観測できなくなる距離、火星や金星の軌道近くまで移動できる方法があれば、つじつまも合うだろうが………たちの悪いSFだな。」
「その訳の分からん現象に、アヴァロン委員会(うち)が糸を引いていると?」
「そうだ!」
 一体全体、どう答えて良いのやら。古池が頭を抱えていると、ふと以前ロブが言っていたことを思い出した。
 航宙艦。ラグランジュ3。月の裏側。
 そして、アヴァロン委員会議長、エイドリアン・C・クラーク………
「慣性力制御?」
 古池は小野と石井の顔を見て、ぽろりとこぼす。
 二人とも古池の言った言葉の意味が理解できないような顔をし、やがて顔を見合わせた。
「議長だ、議長。うち(アヴァロン委員会)のクラーク議長は慣性力制御の研究をしていただろ?知らんか?」
 まず石井が、次に小野が驚いた顔をした。
「…そうでした。」
「それなら、つじつまが合う…しかし、慣性力制御……実用化段階に入ったってのか?」
 小野は小声で古池に話しかける。
「もし慣性力制御の実験だとしたら、何故外部に公表しない?」
「そこまでは分からん。委員会のお偉いさんの判断だ。」
 腕組みをした小野は、石井に言う。
「何か裏がありそうだな。守秘義務があるだろうから、全部話してもらうって訳には行かないかもしれんが、何か分かったら話せるだけ話してくれ。」
「安くない仕事だな。代価は?」
「ここの飲み代を持とう。」
 古池は思わず吹き出した。
「わかった。話せるような事があったら、教えるよ。」
 そういって、カフェオレを飲み干す。多少慣れたが、まだ液体が喉の奥で生き物のように動いている様に思える時がある。  石井が書類を片づけ始めた。
「頼む、こういう喉の奥に小骨が引っかかった様な状態は辛い。」
 小野はそれからすこしだけ考えるような素振りを見せてから古池に言う。
「北山先生から連絡があった。」
「!」
 驚いた古池は、小野をまじまじと見つめる。
「いや、最後に会ったのは八年くらい前だ。あの時は、線量オーバーで強制的に戻された。」
「だいぶ悪いらしい。今は自宅に戻ってるって話だ。」
 小野は書類や報告書を片づけながら言う。
「先生、お前には連絡を入れなかったって言ってた。」
「引っ越しは?」
「してない。三浦のままだ。」
「そうか……」
 古池は大きく深呼吸した。
「ありがとう。出張が終わったら、見舞いに行くよ。」


 今週末は、『AUGST』と『せげいち』の二本立ですヨーン。新刊も何故か出ます。結構隠し玉です。乞うご期待!

 では、次回の更新をお楽しみに。

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