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お題目:亜生命戦争異聞#25

うわーん、三連休、何もできなかったー!。
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1年前の絵を引っ張り出して、絵を載せる。うーむ、スランプ街道一直線。体調もまだ、本調子じゃなかったり、いろいろある訳ですが、なんとかしないとなー………とか言いつつ、こまめな更新(笑)。ビーム発射。
亜生命戦争異聞の第25回です。ちょっと短めですが、勘弁してくださいませー。
しかし、ちっとも軌道から帰ってこない古池様ご一行(笑)、これから一体、どうなっちゃうんでしょうね?(大汗)
(このまま、三百万年の時でも越えてもらうとか(^^;)
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数分後、先にこの奇跡のお披露目を体験した委員たちの助けを借りて立ち上がった古池らは、エアロックからなんとか出ると、やはりまずクラーク議長に詰め寄った。
「こりゃ一体、どういう……」
議長は両手を広げて静粛を求める。古池が、議長の後ろを見ると、先に説明を受けたらしい皆がこちらを見て笑っている。
多分、今の古池らとまったっく同じ事をしたのだろう。
「諸君、問題は実に簡単。答えも単純明解だ。」
議長は事もなげに言う。
「単に、これは艦内に慣性力制御システムの実証装置が搭載され、現在君等は、その実証試験に立ち会っているわけだ。そして、その結果が、この慣性場という訳だ。」
エアロックから出てきた一同は、この説明に沈黙した。
数秒の間を置いて、ロブが口を開いた。
「……どこにも発表されていないじゃないですか。これほどに重大なものを……」
両手を挙げて首を振る議長。
「今、世界に向けて、これ(慣性量制御システム)を発表できるとは思っていないだろう、ロバート君」
ロブは力なく頷いた。象牙の塔にこもっていたとしても、今の世界情勢でこれを発表したとして、それが何をもたらすのかはすぐに分かる。
「ま、皆が聞きたいはずの、慣性量制御システムの理論やら何やらの難しいことは、後で論文のコピーを渡すからそちらを見てくれ。簡単に言えば、量子力学のちょっとしたトリックを使って、運動から慣性力を盗んでいるだけの話だけどね。」
クラーク議長は事も無げにさらりと言ってのけたが、工学者である古池にも、その後ろにある理論とそれを支える工学的奇跡は想像すらできない。
すでに、いつもそうであるかの様に、ロビーをごく普通に歩き回る古池らだが、エアロックの向う側では、磁気靴を履いた係留要員が、宙に浮きながら作業を続けている。
直接その作業の様子が見えるわけではないが、その対比は奇跡か、そうでなければSF(冗談)としか言い様がない。
「きみらが最後の乗客ということになるかな?」
議長が等圧ベイ側を写しているモニタで、シャトルの乗客が残っていないことを確認すると、今度はマイクを取り出して皆に向かって呼びかけた。
「あー、議長だ。」
皆の注目が集まってから続ける。
「諸君、委員会の手品は楽しんで頂けていると思うが、一応諸君らにここに集まってきてもらった目的は、名目だけとはいえ『出張』という事になっている。そこで諸君らは、船内時間午後3時。えーと、今から1時間後にグランドカンファレンスを行うことにする。時間になったら、第一オープンベイ…えーと、案内図では『展望室』となっているホールにお集まりいただきたい。あー、学会(アカデミー)の皆さんも、あわせてご出席願いたい。」
学会(アカデミー)。
その言葉を聞くなり、古池の表情が変わった。
「学会(アカデミー)?」
小声でぼそりと呟いただけだったが、いつもの古池からは想像もできない押し潰したような声に、ロブは思わず振り向いた。
「おい、古池(フル)?」
「いや、何でもない。」
何でもないという言葉とは裏腹に憮然とした表情のままの古池は、早足で展望室の方に向かう。
視線は低く、なるべく何も見ないようにしているのがすぐ分かる。
ロブは古池の後を追いかけた。
「どうしたってんだ古池(フル)、お前の古巣だろ。」
「ああ」
古池はそれ以上答えようとせず、ただ歩いた。
何も言わずついていくロブ。
展望室の前にある広いロビーの様なところで、見ただけで委員会のメンバーではないことが分かる一団がいた。
幾つかの人だかりに別れ、クラーク議長から渡されたらしい論文を囲んで低く呟くような声でぼそぼそと会話をしている。
どの学会(アカデミー)に所属したことのないロブは、何か隠し事をしている様にも、よからぬ相談事をしている様にも見える彼らに、かなり面食らったようで、腰を引きぎみに古池の後ろについて歩いていく。
「おい、古池。学会(アカデミー)の連中は、いつもあんな具合なのか?」
古池は頷いたようにも見えたが、ただ足早に彼らから遠ざかるように歩き続ける。
ロブの言葉を聞いたらしい何人かの学会員たちは、小声で何事かささやきあう。
やがて、学会員の人の山をかき分けて、中から一人の男が飛び出してきた。
「古池君!」
古池は一瞬無視するようなそぶりをみせたが、立ち止まって振り返った。
そのとき古池の顔に恐ろしいまでの怒りが見えた事にロブは驚いた。
「やあやあ、アヴァロン委員会にいるとは聞いていたけど、まさかこんなところで遭えるとは思ってもみなっかったよ。」
男はにこやかに手を差し出す。
古池は男と握手したが、その顔は紅潮し、何かを押し潰したような声で答えた。
「私も、ここで君に会うとは思っていなかった。」
男と古池は、わずかに差障りのない世間話をすると、もういちど握手をして別れた。
ロブの元に戻ってきた古池は、一瞬にしていつもの精気を失い、失望と怒りのない交ぜになった苦渋の表情を浮かべていた。
ロブが学会員たちの元に戻った男の方を見ると、静かな学会員たちの中にあって、身振り手振りも大きく、なにか踊っているようにも見る。
だが、少なくとも、その姿は何年ぶりかで友に会った喜びに満ちたものではなく、むしろ喧嘩に勝った少年のような奇妙な興奮を伴っていた。
古池はほとんど走るような早足で歩く。展望室に向かう廊下から脇にそれると、百メートルは歩き続けて離れたトイレに入った。
ロブがようやく追いつくと、古池は洗面台で顔を洗い続けていた。
目に見えない何かを洗い落とすように、がむしゃらに顔を洗い続けた古池は、顔も拭かずに鏡で自分を見る。
しばらく、身動ぎすらしなかった古池の目尻から、やがて涙が流れ落ちる。嗚咽がこぼれる。
奥歯を食いしばり、全身の筋肉を引き絞るようにして、古池は泣きはじめた。
目から溢れる涙と、食いしばった歯の間からこぼれる嗚咽は、古池の奥底に強引に押さえつけられた感情の圧力を、かえって明確にしていた。
古池がこんな風に感情を露にするのを、ロブは見たことがなかった。
ロブには、なぜ古池がこれほどに泣かなければならないのか、その理由は分からなかったが、ただ、あの男が何かの原因になっているらしい、という事だけは分かった。
学会員だった頃のことを、古池はほとんど話そうとはしなかった。ロブ自身もまた、その事を聞こうともしなかった。
「顔を拭け、古池(フル)。それでカンファレンスに出るつもりか?」
ロブは、古池にハンカチを渡す。
何も言わずにそれを受け取った古池は、もう一度涙を洗い落とすと、顔を拭いていく。
それから不織布の使い捨てハンカチをダストボックスに落し、大きく深呼吸をした。
ロブはただ黙って古池を待つ。
やがて古池はトイレの出口に向かう。
ロブの視線に気がついた古池は、笑ってみせたが、その顔は寂しげで、いつもの古池とは全く違った精気のない顔だった。
まるで怒りで全ての気力を燃やし尽くしてしまったかの様にも見える。
トイレをでた二人は、何も言わず廊下を歩いた。
グランドカンファレンスは、もう始まろうかという時間だったが、展望室には向かわず、コーヒーサーバーのある休憩所を探し出して、そこに腰を落ち着けた。
休憩所は元々係留要員たちのためにあるものらしく、胸に『REST・BREAK』と書かれたバッチを付けた彼らが、思い思いに休みを取っている。
委員会の連中や学会員たちは、さすがにほとんどがグランドカンファレンスに出払っているらしく、今ここにいる係留要員以外の人間は、古池とロブの他、数人だけだった。
ロブが、サーバーからコーヒーを二つ取ってくると、古池はそれに手もつけず、奥のスナックコーナーに向かうと、トレイ一杯の箱を持ってきた。
箱には『ライスバーガー』やら何やらと名称が書いてあるが、よく見ると、旅客ステーションに来て以来ずっとおなじみだった、『LG(低重量空間)対応食』のマークが入っていない。地上にある普通の店で、ごく普通に売られているものだ。
LG(低重量空間)対応食は、食品カスが出にくい加工がなされているものだが、要するにニチャニチャしたりベタベタしたりしていて、味の方もお世辞にも美味しいとは言い難い。
思わず手を出したロブは、箱の封を開けてから、思い出したように古池を見た。
古池は多少元気が出てきたらしく、しかしまだ萎れた顔をして、黙って頷く。
冷凍食品とはいえ、地上の味は格別だった。二人して、トレイ一杯の『軽食』を平らげた頃には、古池の頬も幾分明るさを取り戻し、一方のロブは満足の笑みを浮かべていた。
では、次回の更新をお楽しみに
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